2010年10月アーカイブ
10月の週末の木村家本舗の間隙を縫って、国立国際のマン・レイ展に行った。
Man Ray : Unconcerned But Not Indifferent
じつは前の週に休館日と知らずいちど来ていて、いわばリベンジの再訪。
横尾忠則ポスター展のときにも思ったが、この地下の美術館は、なんとなく陰鬱な感じで、
どうも愉しいところに来ている気がしない。たとえば、そこにいるだけで嬉しくなるような
金沢21世紀と比べると、建築力が違うとしか言いようがない。
ともあれ、マン・レイである。
自らを「光線」と名づけた写真家。
もちろん名前はよく知っているし、その作品もよく眼にしているはずだが、なんとなく全体の
姿がうまくつかめない人なので、写真だけでなく、彼が遺したオブジェや絵画、あるいは
スケッチやデッサンなど、アーティストとしての全貌が観られるというこの展覧会の巡回を
心待ちにしていた。
作品の大半が写真だけに、贋作が多いといわれる人だけれど、今回の展示は、彼の遺族が
設立し、全作品の著作権を所有するオフィシャルな財団の所蔵品だから正真正銘の純正品で、
生前の所持品が観られるのは、これが最初で最後かもしれない。
とにかくマン・レイという人は現代アートの原点ともいえる、ダダからシュルレアリスムという
1920年代のアート・シーンの中心人物のひとりであり、唯一のフォトグラファー、しかもピカソと
同じように70年代まで生き残った、20世紀美術の目撃者なのだ。
そして、複製ができる写真というメディアを、アートに高めたのは、この人の功績が大きい。
ともかく膨大な数の作品群である。
自由奔放に制作された立体作品や絵画、いつもなにか面白そうなものを子どものように
探し続けていた彼が発見した、レイヨグラフ/ソラリゼーションといった手法をつかった作品も
インパクトはあるが、やはりストレートな写真、なかでもモノクロのポートレイトが印象に残る。
いっしょにニューヨーク・ダダを始めたマルセル・デュシャンやフランシス・ピカビア。
そして20年代のパリのセレブリティたち。
ジェイムス・ジョイス/エリック・サティ/ジャン・コクトー/ルイ・アラゴン/ヘミングウェイ/
ポール・エリュアール/アンドレ・ブルトン/ストラヴィンスキー/ジョルジュ・デ・キリコ/
ルイス・ブニュエル/マックス・エルンスト /イヴ・タンギー/ジャコメッティ/パブロ・ピカソ、
そして彼らのアイドルだったモンパルナスの女王キキ。
当時の先端のアーティストの、緊張感の漂う凛とした表情は、彼でしか撮れなかったはず。
また、マン・レイが自分でプリントし、で額装したという初公開のカラー写真は、サイズも形も
それぞれ違った額に納められたていて、写真もやはり立体作品だと彼が意識していたこと
がとてもよくわかって、あらためて感心させられる。
常に、写真という新しい芸術と闘っていたのだ。
この展覧会では、マン・レイの生涯を、New York 1890-1921 / Paris 1921-1940 /
Los Angeles 1940-1951 / Paris 1951-1976、の四つに時系列で区切って構成されているが、
マン・レイは、終生パリのアーティストだったんじゃないかと思う。
巴里のアメリカ人。
そのときのパリは、文字どおり芸術の都だったし、杉本博司がインタビューで言っているように、
1920年代のアートや文学は、「種」として、今日の文化の通底となっていることは間違いない。
そしてそのシーンにおいて、マン・レイという人が果たした役割がとてつもなく大きかったことが、
彼の制作活動を網羅したこの展覧会を観ればよくわかる。
" unconcerned but not indifferent "
ユーモアさえ感じるこのイカしたフレーズは、パリにあるマン・レイの墓碑に刻まれているそうだ。
もちろんこれは、生涯のミューズとして彼の死を看取ったジュリエット・マン・レイが、二人の墓の
墓碑銘として選んだもので、生前のマン・レイの口癖だったといわれている。
この言葉のあとには、" Man Ray 1890-1976 Love Juliet " と続く。
そして、1991年に亡くなったジュリエットの墓碑銘は、" TOGETHER AGAIN "
ちょっと沁みるね。
「無頓着だけど、気にしてないわけじゃない」
明らかに、朋友だったデュシャンの「無関心の美」を意識した言葉に違いないが、良くも悪くも
これほど端的に、彼の生き方とその芸術を表している言葉は、ないように思われ。
graf でお茶。
*
10月の本買い。
本屋通いは、変わりなくいつものペースで続けているが、「木村家本舗」が思いのほか忙しく、
いつもならデータを入力する時に必ずひととおり眼を通し、あれやこれやと想像をめぐらせるのが
ひとつの愉しみでもあるんだけれど、とてもその余裕がない。
とりあえず面白そうなところをピックアップしてみた。
大半は木村家本舗に出張中である。
今月の本買いは、単行本・文庫本・雑誌を合わせて91冊。
もっともっと、アホほど買いたい。
□ 猫の歴史と秘話 平岩米吉 池田書店 19800210 初版 ¥1,800
□ 無能の人 つげ義春 日本文芸社 1991 初版 ¥800
□ 小林秀雄の恵み 橋本治 新潮社 20071220 初版 ¥1,200
□ 反オブジェクト 建築を溶かし、砕く 隈研吾 筑摩書房 20000710 第1刷 ¥1000
□ 藤森照信読本 二川幸夫編 ADA EDITA Tokyo 20100924 初版 ¥2100
□ 退屈の利用法 植草甚一 晶文社 19821220 初版 ¥2,400
□ 鬼平対甚一 植草甚一 晶文社 19830830 初版 ¥1,500
□ ビート詩集 ピポー叢書 65 片桐ユズル 国文社 19700715第2版 ¥4,000
□ 教育スケッチブック バウハウス叢書2 パウル・クレー 中央公論美術出版 ¥4000
□ 響宴Ⅱ 蓮實重彦 日本文芸社 19900525 第1刷 ¥300
□ わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい 鴨居羊子 三一書房 19730930第一版第 ¥2,400
□ 蘆の髄から 檀一雄 番町書房 19760725 初版 ¥900
□ エッセ・クリティック ロラン・バルト 晶文社 19840720 6刷 ¥1,900
□ トゥルー・ストーリーズ ポール・オースター 新潮社 20050525 5刷 ¥1,000
□ 万葉集 Manyo Luster 高岡一弥編 ピエブックス 20030606 初版第3刷 ¥2,000
□ しなやかさというたからもの 国分一太郎 晶文社 198407201 4刷 ¥700
□ 港町 魂の皮膚の破れるところ 飯島耕一 白水社 19810910 初版 ¥900
□ 幻想の画廊から 澁澤龍彦 美術出版社 19680520 再版 ¥2,000
□ ジャズ・ストリート W.M.ケリー 晶文社 19690331 初版 ¥300
□ 浴槽の花嫁 一人三人全集Ⅴ 牧逸馬 河出書房新社 19691105 初版 ¥2,800
□ 時代の射手 寺山修司 芳賀書店 19710510 3版 ¥1,500
□ 宇宙のかたち 日本の庭 内藤忠行 世界文化社 19981020 初版第1刷 ¥1,200
□ 朝鮮とその芸術 柳宗悦選集4 柳宗悦 春秋社 19720520 新装版第1刷 ¥2800
□ 侘び・数寄・余白 松岡正剛 春秋社 20091220 第1刷 ¥1,400
□ Marilyn Norman Mailer GROSSET DUNLOP 19731008 First printing ¥2,900
□ 海揚り 井伏鱒二 新潮社 19811120 第2刷 ¥500
*
Twitter 発信中 。
なかなか追加できない「建築と戯れる」のブックリスト。
http://kotobanoie.com/
「ウチの家でも古本屋やりたいんですけど・・・」
と木村さんから最初に話を聞いたのは、7月の末だった。
矢部さんのところでの「水土書店」のクロージング・パーティのとき。
家で古本屋!?
なにそれー、というのがそのときの正直な気持ちだった。
一瞬、社長の道楽話かとも思ったが、木村さんはそんなタイプの人ではないし、
たぶんなにか思惑があってのことだろうと思って、深く考えもせず、
「いいですよ」、と答えたような気がする。
とにかくヤバそうなことは、すべてポジティブに受け入れるというのが信条なのである。
気がする、というのは辿ってみると、その3日後に、こんなDMを送信していたからだ。
"Books in Residence = 本のある暮らし、あるいはスペース"
本棚の提案ができればいいんじゃないかと思います。
ディスプレイは各部屋にその本棚、傍らに名作椅子。
いい椅子を一家に一脚という提案も兼ねて。
10:20 AM Jul 27th
そして、このDMに対する木村さんのレスポンスは早かった、しかも2連発。
Books in Residence Books + Open House 本と家本家ほんやほんいえ!
ホントイエほんけその本棚傍らに名作椅子いい椅子を一家に一脚
建築家の作品 ヤベさん等々
写真家の作品 nomotoさん?服部さんの作品?近くの長屋を使う?
12:41 PM Jul 27th思いつくままに書きましたが、本と家が、(加藤さんと私で) 人と人の出会いを
文化との遭遇を 提供できれば......と。
12:59 PM Jul 27th
あ、熱い!
こちらとしても、この熱気は正面から受けざるを得ない、苦し紛れではあっても。
今度の日曜日から夏休みで鳥取にいきます。
旅先で海でも眺めながら、本と家のことを妄想してきます。
戻ったらいちどお会いしましょう。
木村家の佇まいもいちどじっくり感じてみたいですし。
なんとなくいいことができそうな気がしてきました。
10:00 PM Jul 27th
じつは、「いいこと」がどんなことなのか、この時点では皆目見当がついていない。
ただ、ついていないながらも、考えてはいたようだ。
木村家本舗(キムラケホンポ)でどうでしょうか。サブタイトル考え中。
9:10 PM Jul 29th
次の一撃は、効いた。
はい了解です。松丸本舗に似ているのが、ちょと気になはりますが。
サブのひとつは、Books + Open Houseもよろしく。
11:26 PM Jul 29th
「松丸本舗」というのは、あの松岡正剛が、東京の丸善本店でやっているインショップの本屋である。
もちろんそのことは情報としては知っていたが、このプロジェクトのことを考えているときには、
まったく頭の片隅にもなかったのだが、こういう風に指摘されてみると、
何か刷り込みのようなものがあったのかもしれない、と思わざるをえないし、
なによりも、このかぶりかたは、面白くない。
いやーまったく気がつきませんでした。も一回考え直します。おそまつっ。
12:24 AM Jul 30th
結果はご覧のとおりだが、このことは、後々までかなり尾を引いた。
オープン直前まで、このことだけを考えていたといってもいいかもしれない。
ネーミング、名は体をあらわす、ということの大切さは、身に沁みて知っているからだ。
8月半ばに書いたこのブログに、その迷いが如実に現れている。
think naturally
13 Aug, 2010
ともかく、まあこんな風にしてこの「木村家本舗」は始まったのだ。
そしてその「木村家本舗」でのある一日のスケッチ。
SKETCH : SUN. OCT.17, 2010
8:49 The Girl from Ipanema / Sinatra & Jobin
水曜日に仕入れた本や均一棚の追加分を積んで生野の木村家に向かう。
いつもならたくさんの車で混んでいる阪神高速は、日曜日でがら空き。
車の温度計の表示は20℃、薄く陽も射していて、一年でそれほどない心地よい季節だ。
日曜の朝の大阪の街は、なんとなくのんびりした雰囲気が漂っていて、いつもの喧噪はない。
9:32 New Frontier / Donald Fagen
木村家に到着。
積んできた本を降ろし、ディスプレイをチェック。
初めて来る人ばかりだから、それほど気にすることではないが、やはり先週とはちがう見せ方をしたい。
面で見せている本の中でも、売れていったものがけっこうあって。
2階の木村さんの遊び部屋には graf の家具がはいって、気配が一変している。
あのでっかい marenco は、どこに片付けたんだろう?
9:50 Family Affair / Sly & the Family Stone
最初のお客さんは、ご近所のオヂサン。
ぷらっと散歩がてら、といった感じの体で入ってこられた。
「ちょっと見せてもらいにきた。」
まだ一時間以上前なんだけど、開店前のなんとなくワサワサした雰囲気が伝わってしまったようだ.
何ともなしくずしなオープニング、それはそれで " らしい " けど。
10:42 Home / Brian Eno & David Byrne
この日、最初のお買い上げは木村夫人。
雑誌を4冊、「CASA BRUTUS」と「住む」のバックナンバーというのはいかにもお仕事柄である。
開店前の、ちょっと緊張気味のひととき。
10:57 Sun Song / Stuff
BOOKS+コトバノイエのイベントでは常連の大村クンが、いい感じにヤレたRenault 4で登場。
実質的には、かれがこの日最初のお客さんだ。
いつも風のように来て風のように去っていく大村クン、今日も狙い定めたように、小西康陽の
「これは恋ではない」とJ.J氏の肉声が聴けるCDのついた「ぼくたちの大好きなおじさん」という
「売りたくない」本をかっさらっていった。
いつもながらの小癪なセレクションである。
11:13 The Whiter Shade of Pale / Halie Loren
大村クンに重なって、コトバノイエの庭師の家谷さんが、オープニングの日に続いての来訪。
オープニングの時に取り置きを頼まれていた「THE BOB DYLAN SCRAPBOOK」と飯島耕一の
詩集「ゴヤのファースト・ネームは」に加えて、大判の「植草甚一主義」を買われてしまった。
これもまた手厳しい。
彼との間ではずっと前から物々交換の契約ができていて、一昨年の庭石、昨年の小笹の植栽を
してもらった分のクレジットが残っているので、支払いは発生していないが、高額の大型書籍を
買って貰えるのは、嬉しくもあり淋しくもあり。
11:38 The Doc of the Bay / Halie Loren
このあと、木村さんのお客さんが続々と現れ、波が押し寄せた。
木村さんのところで何十年ぶりで普請したという清見原神社の神主さん、少し前に新築住宅の
工事が始まったという高槻の若いご夫妻、、赤ちゃんを抱いた女性建築チーム、木村工務店で
建てた家に住んでいるという奈良の人、木村工務店で施工したことがあるという設計事務所の
人たちや出入りの職人さん、自著を持ってきていただいたご近所のジャーナリスト、川西に住ん
でいらっしゃるという木村さんの本好きの妹さん、そしてたくさんの子どもたち。
心地良いざわめき。
人の流れというのは不思議なもので、静かなときはまったく水を打ったようだが、
いったん波がくると、これでもかというくらいに重なってくる。
何がきっかけでそうなるのかはわからないけれど、あらかじめ予想できるものでもなく、
準備のしようもないものだから、そうなったらその流れに身をまかしてしまうしかない。
それはそれで、案外愉しいものなのだ。
12:43 Waltz for Debby / Bill Evans Trio
その波がおさまったのがこの時間だった。
一瞬の凪。
2階の半外デッキで、木村さんと大阪名物コナモン、イカヤキとタコヤキの昼食。
こちらは本を売っているだけだからそれほど気を使うことはないが、自宅に訪れた人たちの
一人一人を、律儀にもてなす木村夫妻の気遣いはいかばかりかと、慮る。
40分ほどのランチブレイク。
そして午後の波。
誰が誰だかわからないが、午前中とおなじように、様々な人が現れ、笑顔で立ち去ってゆく。
天気の良い秋の日曜日の午後を、どの人もリラックスして楽しんでいるようだ。
ありがたいことに、本もたくさん買っていただいた。
一日の売り上げとしたら、冊数も金額も、BOOKS+コトバノイエの新記録である。
それにしても、木村工務店のこの動員力。
日頃から、いいお付き合いをしていないと、こんなに人が、それもほんとうに気分のいい人たちが
集まってくるはずがないんだから、木村工務店の仕事のクオリティを推して知るべし。
こういう人と人とのつながりを、オープンハウスと本の商いを媒介にして、というのがこのプロジェクトの、
そもそもの趣旨だから、この光景は、まさに本願成就といってもいいのではないか。
「集う、繋がる、広がる」
前の日、家具を入れてくれた graf 服部滋樹さんの、この素敵な言葉が頭の中をよぎる。
16:59 Spring High / Lamsey Lewis
午後の人の波が途切れ、一息ついたのがこの時間、気がついてみれば、黄昏。
キッチンで、お土産のケーキをいただきながら、少しのんびりと四方山話。
たぶんこのあと、店仕舞い間際に、また小さな波が来るはずだ。
18:26 what a fool believes / The Doobie Brothers
日没閉店。
木村家本舗 - Books in Residence - 10月の週末のオープンハウスと古本屋。
それが現実にそこにあることが、なによりも素晴らしい。
