a day in lifeの最近のブログ記事
明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
洋服屋さんが、洋服のデザインやクオリティで勝負するように、
本屋も、本そのものの力で勝負するしかない。
というのが、あらためて感じたこと。
だから、もっとバンバン買わなきゃ、と思います。
買うことで、 new horizon がきっと見えてくる。
twenty-ten というのは、なんとなく、ゴロがいいですよね。
2010冊買いたい。
BOOKS+コトバノイエ
店主敬白
*
中津の one coin / one note は、1月6日からオープンしています。
営業期間もあと1ヶ月となりましたので、ぜひお越しください。
最近追加した「デザインの発見」のブックリスト。
近藤さんからこんなフライヤーを添えたメールをいただいたのは、10月の初めだった。
路面のスペースをポップアップ・ストアとして実験的に体験できるのはまたとないチャンスだし、
近藤さんの、オフィスを町に向かって開いてきたいというメッセージも共感できるものだったから、
なんとか実現したいなあとすぐ思った。
その想いは、実際の場所を目の当たりにし、近藤さんの話を聞いても変わらなかったけれど、
とにかくまったくやったことのないことだったから、短期間にせよ、どうやって運営するかという
アイデアが、すぐには思い浮かばなかった。
どういう構成で組み立てるのか、どういうスタイルにするのか、そして何よりもフルタイムでそこに
居られないんだから、それをどう解決するか。近藤オフィスに負担をかけるわけにはいかないし、
だからといってアルバイトを雇って店番させるんじゃ意味がない。
一日や二日のことじゃないから、その辺が見えてこないうちに返事はできない。
one coin のアイデアが浮かんだのは風呂の中だった。
別にアイデアというほど新しいものじゃないけれど、ぜんぶ100円、つまり100円玉のやり取りだけ
だったらすごく簡単に、誰にでも店番してもらえるかもしれないと思い当たったのだ、もちろんそれも
近藤オフィスの協力がなければ成り立たない話ではあるけれど。
ただ100円の本だけじゃ原価割れで仕事にならないから、一個のコインと一枚の紙幣という組立て
にして、100円の本をフック、500円をヴォリューム、そして1000円の本をバリューと考える。
一枚の紙幣として2000円や5000円や1万円のラインも浮かんだが、そこは思い切ってシンプルに。
そこまでいけば、それぞれの価格帯をラベルの色で見分けるようにすることや、one coin / one note
というタイトルや、ディスプレイまでが、一瀉千里に映像として頭の中を廻りだした。
これならいけるかもしれない。
古本屋のスタイルとしても、ちょっと斬新な感じがするし。
Let's get it on !
11月25日 水曜日
BOOK SHOP one coin / one note のプレ・オープニング
10時少しすぎに近藤オフィスに到着。
初売りはお隣の食事処「純子」の純子さん、司馬遼太郎の「韃靼疾風録」を買っていただいた。
どんなカタチであれ、まずは本が売れないことには始まらないわけだから、これがスタートだ。
奥のスペースにしつらえていただいた帳場に座れば、古本屋のオヤジである。
近藤建築研究所にはネット環境も整っているから、MacBookをひらけば仕事場にもなる。
なんかいい感じ。
中津という町は今まで全く縁がなかったところだが、梅田のすぐ近くなのになんか下町の風情があって、
雰囲気があたたかい。そういえば、昔行ったことのある「カンテ・グランデ」といういい感じのチャイ屋も
たしかこの辺だったはずだが、まだあるのかしらん。
初日の売上は、17冊 3,700円、思ったよりいけてる。
11月26日 木曜日
夜、近藤さんからメールで報告をいただく。
本日の売り上げ
100円 15冊
500円 5冊計 4,000円
売れると楽しいですね。
いかにも。
11月27日 金曜日
SPOT LIGHT のセレクションをお願いした「Meets Regional 」の半井さんから取材のメール。
11月28日 土曜日
こども店長を派遣。
この日は、近藤オフィスのガラスファサードに、コトバノイエの名刺でお世話になった山崎さんが
デザインしてくれたショップロゴを、カッティングシートで貼ってもらうことになっている。
気になって夕刻駆けつけたら、すっかりショップらしくなっていた。
土曜日は人通りが少ないようだ。
この辺の感じは、もう少しやってみないとつかめないんだろうな。
明日の日曜日はどうだろうか。
11月29日 日曜日
2回目の店番。
この4日間で、思わぬ数が売れたので、ショップに行く前に仕入れをした。
もちろんなんでもいいわけじゃなく、コトバノイエの本棚にあってもいい本というのがモノサシだから、
いつもあるというものでもないが、それでも100円売りの単行本と文庫を合わせて40冊ほど買えた。
買ってきた本をデータベースに入力して、プライスの目印の丸い小さなシールを裏の見返しに貼る。
赤ラベルは100円、青ラベルは500円、黄色ラベルは1000円。
午後は半井さんの取材。
近藤さんと一緒に、ここにいたる経緯や,考えていることをざっくばらんに話す。
半井さんには、また何冊か買っていただいた。
この人はコトバノイエの女神である。
DOCUMENT : WED. DEC.2, 2009
10:37 Keb' Mo' " Suitecase "
アコースティックでルーズなブルースでオープン。
近藤さんのオフィスが10時からなので、できればその時間に到着したかったが、野暮用を済ませて
いるうちに少し遅くなってしまった。
すでにスタッフの下田さんが100円の箱を、オーニングの下に出していてくれている。
人通りもけっこうあって、何人かの人がその100円の本たちを覗いていく。
10:58 Walter Becker " Circus Money"
ショップスペースの奥の帳場に座ってMacBookのセッティングをしていたら、50代とおぼしき
オバサンが文庫を一冊手に持って入ってきた。
「吉村昭なんかないかなあ」
「いあや、ちょっと今は置いてないですねえ、小説が少ないですからねえ」
「司馬遼はほとんど読んでしもたしなあ、あ、このラスプーチンゆうのん面白そうやん」
山田風太郎の「ラスプーチンが来た」である。
それを手にとって横の100円棚に移り、春樹の「シドニー」を見やった。
「村上春樹やねえ」
「ええ、それ安いと思いますよ」
「本が増えてどうしようもないねんけど、安かったら買ってしまうねんなあ」
「本て勝手に増えますからねえ」
「あと、この文庫も軽そやから買うとくわ」
「あほらし屋の鐘が鳴る」斎藤美奈子/「ラスプーチンが来た」山田風太郎/「シドニー!」村上春樹
そのオバサンが帰ってまもなく、おばあさんが文庫本を一冊を持って椅子に腰掛けた。
バッグから一片の紙を取り出して本と見比べている。
「どうしたんですか」と覗き込むと細かい字で本のタイトルが書いてある。
手にしているのは、松本清張の「陸行水行」。
「清張さんのファンやねんけど、おんなじ本何回も買うてしまうから持ってるやつ書いたんねん」
その気持ちとてもよくわかります。
ダブり買いをすると、自分のバカさ加減に腹が立ってしまうんだよね。
残念ながら手にしている「陸行水行」は、その持ってる本リストにあったようで、
「あ、やっぱりこれあるわ」
リスト効果抜群である。
さらにそのおばあさんは、持ってる本リストだけでなく、手描きの未読リストも持っていて、
できれば探してあげたいなあと思ったので、そのリストをコピーさせていただいた。
こういう人のために本を仕入れるのは本願である。
おかしかったのは、その未読リストにもタイトルのダブりがあったことだ。
「球形の荒野」という渋いタイトルの本。
「おばさん、これダブってますやん」
「ほんまやなあ、ハハハ」
このおばあさん、昨日も来たそうだ。
再来店を約して彼女が店を離れたのは、11時32分、時間がたつのが早い。
11月25日のプレオープンから、店番をするのはこれが3回目だが、町に面したショップスペースの
ガラス越しに、100円箱の本をのぞいていく人の表情を眺めるのはとても愉しいし、見知らぬ人と
本の話をするのも新鮮な感じ。
コトバノイエで感じることができなかった「本を売る」ということのリアルな感触が、ここにはある。
それを感じさせてもらえただけでも、近藤さんには感謝したいと思う。
12:42 Carla Bruni "No Promises "
12時を過ぎると、ランチブレイクで人通りが多くなる。
たぶんこの時間帯が、いちばんのビジネスチャンスなんだろう。
1時少し前、自転車に乗った若いカップルが立ち止まり、文庫箱を見たあと店に入ってきた。
雑誌やアートブックを眺めながらなにか話してる。
慣れない店主なので、こんなとき声をかけたほうがいいのか迷ってしまう。
2人でいろいろと品定めをし、マルク・ドゥ・ストメ/中沢新一訳の「禅の言葉」をお買い上げ。
代金をいただくときに、
「これなかなかいい本ですよねえ」
と呟いてはみたが、いかにもぎこちない。
このあと、少し手が空いたので近藤事務所のスタッフ下田さんとしばしカメラ談義。
なんでも彼は最近フィルムのカメラに興味を持っているそうで、F3を見せる約束をしていたのだ。
下田さんは24歳、物心ついたときにはすでにデジタル全盛だったそうだから、フィルムの一眼レフ
のあのメカニカルな、いかにも精密機械といった姿は、きっと新鮮なんだろう。
現像ができあがってくるまでのあのドキドキ感は、すぐに結果の見れるデジタルカメラにはないもの
だから、それを味わってみてもらいたくて、F3に36枚撮りのリバーサルを装填して手渡した。
とにかく昼休みで36回シャッターを押してごらんよ、というところかな。
昼飯は、このショップの第一本買い人純子さんのお店で、お好み焼き定食。
14:18 Keith Jarrett " The Koln Concert "
2時過ぎに、中年男性が文庫本3冊を手にもって帳場へ。
東野圭吾2冊と、佐野眞一「東電OL殺人事件」。
清算のときラベルの色のことを尋かれた。
文庫本はぜんぶ100円にしてあるからラベルを貼っていない、実は玉石混淆なんだけれど。
続いて、学生さんらしい青年。
村上春樹「蛍・納屋を焼く、その他の短篇」と浅田彰「逃走論―スキゾ・キッズの冒険」
スキゾ/パラノの団塊蔑視論をどれだけわかってもらえるかはいささか心もとないが、
若い人がこういう本を町の古本屋で100円で買うことは、断固支持したい。
煙草より安いお金で、2つの爆弾を自分の居場所に置くことになるのだから。
読まなくたってぜんぜんかまわない、Book is not just for reading なのだ。
15:09 Sheryl Crow " Tuesday Night Music Club "
3時近くになって落ち着いた気配だったので、下田さんに店番をお願いして、定例の本買いと、
美容院 Smile Seed の月例コーディネーションに走る。
美容院は月単位の契約だから必ず行かなくてはならないし、本買いも、このショップがいいペースで
売れていってくれているので、補充のための仕入れをしなくてはならない。
なにより本買いの愉しみを、犠牲にするわけにはいかないのだ。
急ぎ足の本屋だったため、いつものようにじっくりとはチェックできなかったが、収穫はあった。
□ 封印された星 -- 瀧口修造と日本のアーティストたち 巌谷國士 平凡社 20041205/初版第1刷
シビれる造本、署名入り。
17:41 Bill Evans Trio " Waltz for Debby "
5時過ぎにショップに戻り、買ってきた本(もちろんおばあさんの清張もあります)を整理していたら、
ガラス越しに見たことのある人の姿。
コトバノイエを設計してくれた矢部さんと、彼の先輩リョーへイさんが立ち寄ってくれたのだった。
追ってリョーヘイさんのオフィスの長江さんも合流。
見知らぬ人とのセッションも楽しいけれど、こうやって駆けつけてくれる知己もありがたい。
ビールも開いて、ワイワイガヤガヤと小1時間。
18:54 Tom Waits " Closing Time "
日没閉店。
みんなで野田矢部邸に移動した。
倉俣史朗さんが言っていたように、ショップスペースとは祝祭の空間なのだと思う。
だからこそ、新しいことがそこから発信され、リニューアルや改築が繰り返されるのだ。
このショップも、BOOKS+コトバノイエも、いつも新鮮な、どこにもないブックストアでありたい。
近藤さんが、Meets のインタビューで言っていた、
「これも僕にとっては建築なんです、完成されない建築です」
という言葉が忘れられない。
good luck, one coin / one note.
*
店番の間隙をぬっての、果敢な本買い。
でもそれなりに集まった。
□ ポスターを盗んでください+3 原研哉 平凡社 20090917/初版第1刷
□ アンリ・ミショー ひとのかたち 東京国立近代美術館 平凡社 20070702/初版第1刷
□ モーターサイクル南米旅行日記 エルネスト・チェ・ゲバラ 現代企画室 19971008/初版第1刷
□ 10年目の「センチメンタルな旅」 荒木経惟・陽子 冬樹社 19820707/初版第1刷
□ ドゥエイン・マイケルズ写真展 図録 Duane Micals PPS通信社 19990203/初版
□ WHAT IS OMA ヴェロニク・パテヴ TOTO出版 20050530/初版第1刷
□ シュルレアリスム簡約辞典 ブルトン/エリュアール 現代思潮社 19710630/初版
□ 今日をひらく 太陽との対話 岡本太郎 講談社 19670324/第1刷
□ 愛書狂 生田耕作編訳 白水社 19810305/第4刷
□ 月曜日は最悪だとみんなは言うけれど 村上春樹編・訳 中央公論新社 20000510/初版
□ 5Bの鉛筆で書いた 片岡義男 PHP研究所 19830725/第1刷
□ はだか 谷川俊太郎詩集 谷川俊太郎 筑摩書房 19880730/第6刷
□ 春灯雑記 司馬遼太郎 朝日新聞社 19911101/第1刷
□ 十六の話 司馬遼太郎 中央公論社 19931020/初版
□ 続 大きな約束 椎名誠 集英社 20090630/第2刷
□ 名残り火 藤原伊織 文藝春秋 20070930/第1刷
*
最近追加した「これが HIP ! だ」のブックリスト。
SPOTLIGHT 企画、「 his master's choice - BOOKS+コトバノイエ 晶文社の30冊 」公開中。
quintessence <kwintésns> という言葉がある。
ものの完璧な具現/濃縮された純粋なエッセンス/真髄 という意味だと、辞書にある。
片岡義男さんは、14オンス入りオクタゴナル・ボトルに入ったハインツのトマト・ケチャップに
ついて、「それは選び抜かれたベストというような、何かにとって代わられる可能性のある
ものではなく」、パッケージやイメージをも包括した、「これ以上望めないほどの完璧な完成度
をもって自立した」ひとつのモノだと断定し、このように書いている。
ケチャップを求める旅は、ハインツのそれを選ぶことによって、終了する。
手中にはパーフェクトなケチャップが残り、そのケチャップと、それを選んだ人の間には、
官能的なと呼んでさしつかえないほどに充実した呼応する関係が結ばれる。
ケチャップが、ただ単によく出来たケチャップであることをこえて獲得している、全体的な
完成度、たとえばそれをひと目見て、あ、これはパーフェクトだ、と直感的な自信を持って
言いきれるようなクオリティが自立してはっきりと感じとることができるとき、そのような
クオリティを、ひと言でなんと言えばいいかというと、やはり、クインテッセンス、だろう。
その言葉をタイトルにした本、というかモノクロームの写真集を、Better World Books という
アメリカにある、NPOのブックストアから amazon 経由で手に入れた。
□ QUINTESSENCE ― The Quality of Having "it" Betty Cornfield & Owen Edwards BD&L 1983
アメリカにかなり昔からある日常的なモノのなかから選ばれた、64のクインテッセンス。
マティーニ/ウエッジウッッドのボーンチャイナ/キャンベルのトマトスープ/ポラロイド・SX70/
モンブランのNo.149/ピーナッツバターとイチゴジャムのサンドイッチ/スタインウェイのピアノ/
オレオ・チョコレートクッキースーパーの茶色の紙袋/レイバンのメタルフレーム・サングラス/
ハーレー・デイヴィッドソンのエレクトラグライド/クレヨーラのクレヨン/ジッポのオイルライター/
コパトーン・サンタンローション/M&Mのチョコレート・キャンディ/ラコステのポロシャツ/
ジョンソンのベビーパウダー/ハインツのトマトケチャップ/L.L.ビーンのハンティングブーツ/
タッパウェアーのコンテイナー/ドンペリニヨンのシャンパン/スイス・アーミーナイフ・・・・。
もはや変わる余地のない、あるいは変えようと思ってはいけない one and only のモノたち。
この本を眺めていると、極私的クインテッセンスごっこがしたくなってきた。
どういうわけか、まずうかんだのが車だった。
PORCHE 911
水平対向のエンジンを搭載するRR(リアエンジン・リアドライブ)という、まったく現代的ではない
レイアウトを、1963年のデビューから頑に守りつづけ、しかも、誰もが即座に思い浮かべる一つ
のイメージを、確実に保持しているそのデザインの「在りかた」は、まさに quintessence 。
最新のポルシェが、最良のポルシェである、という言葉が、すべてを表している。
生産されたすべての数の7割がいまだに現役であるというその生存率は、ひたすらスゴイ。
残念ながら所有したことはないが、乗ったことはある。
乗ればシビレル。
カメラなら NIKON F3
F2でもF4でもF5でもなく、ましてや絶対にDでもなく、圧倒的にF3なのだ。
プロの世界でデジタルがスタンダードとなり、銀塩カメラがマニアックな愛玩具になっても、
36 x 24 mm というフォーマットは、一眼レフの標準サイズ(フィルムがCCDに変わったが)で
あり続けているし、的確に現像されたカラー・リバーサルフィルムの写真としての美しさは、
他のなにものにも代えがたい。
そのすべての原点としてF3がある。
ジウジアーロによるデザインを含めたそのスタイルは、代えようもないし、変わりようもない。
一眼レフはライカではなく、圧倒的にNIKONなのだ。
ちなみにフィルムは、kodak エクタクローム64 EPR 、これしかない。すでに廃番だけどね。
この本には、CAMEL が載っているけれど、煙草なら Marlboro をプッシュしたい。
タール12mgとパッケージには書いてあるから、時代の流れとは完全に逆行した存在だけれど、
とにかくマールボロ・赤・ボックスは、男の世界、というか男の世界に憧れる男の世界なのだ。
たまに喫うと、クラクラするくらいに旨い。
パーソナル・コンピュータの世界は、ドッグ・イヤーといわれるほど移り変わりの激しいものだから、
ほんとうの意味での quintessence なものはないのかもしれないけれど、唯一それらしきものを
あげるとしたら、apple という会社、あるいは Steve Jobs というカリスマだろう。
ひょっとしたら、iPhone 。
使ってて、こうなったらいいな、というところがあるから完成されたものではないと思うけれど、
使いはじめたら他のケータイが全く気にならなくなった。パーフェクトな感じがないのにベストを
探す旅から解放されるというのは、まさにそれが quintessence をもっているからだろうと思う。
音楽はどうだろう。
Miles の「 Kind of Blue 」はOKかもしれない。
Dylan の「 Highway 61 revisited 」が、たぶんそうなんじゃないかという気がするけれど、
ちょっとノスタルジイが入っているような気配も感じる。
John Lennon は、音楽じゃなく、そのライフスタイルが、quintessence 。
でもきっとそんなことじゃなく、12インチのジャケットに収められた、LPレコードという物体
そのものが、かけがえのない quintessence じゃないかという気がしてきた。
音楽のことを考える時イメージとして浮かんでくるのは、あの無粋なプラスティックの箱ではなく、
丸いレコードのカタチのスレ跡が残る、あの12インチ四方の、紙のオブジェなんだから。
本はむつかしいな。
作品ではなく、作家をあげてもいいといわれれば、躊躇なく「坂口安吾」をあげるんだけれど。
この人の物書きとしての覚悟は、quintessence と呼ぶに値する。
音楽と同じように物体と考えれば、オレンジの背表紙のペンギンブックスのペーパーバック。
本というものの、本質やイメージの総体を、この叢書が象徴しているように思う。
あと文房具なら、片岡さんがいうように、やはり鉛筆が頂点だ。
STAEDTLER の2B、決して三菱 uni ではなく。
優秀な日本製製品の常のごとく、単純にクオリティ(芯が折れにくいこと、削りやすいことがその
要諦だと思うが)だけを比較するなら uni かもしれないが、鉛筆としての存在感がまるで違う。
机の上にあの青いボディが見えるだけで、なにか気持ちがシャンとする感じがするのだ。
食べ物でいうと、たとえば雪印の6Pチーズ。
似たようなものや、いろいろなバリエーションがあるが、これに代わるものはない。
1954年には発売されたというこのきわめて日本的なプロセスチーズは、パッケージやその味の
quintessence 度、定番感で他の追随を許さない、というか、これ以外のものはあり得ない。
フランスのチーズは、fromage という名の別の宇宙のことだ。
人とモノのありかたに、教訓なんてない。
ただ漠然と荒野のようにさまざまなモノがあって、そのなかのある種のモノは、うまく表現でき
ないけれど、美しさや官能性といった目に見えない光のようなものを発していて、それを感じる
アンテナさえあれば、人とモノとの、交感とでも呼べるようなコミュニケーションが成立するのだ。
だからどうってことはないけれど、そういうのってなんか少し愉しいじゃないですか。
*
晩秋の本買記。
バタバタしていて気分はいっこうに秋らしくならない。
□ 地球が回る音 中村とうよう 筑摩書房 19910925 第1刷
ふだんなら買わないカバーなしというB品だが、著者渾身の大著を純粋に読んでみたくなった。
ニュー・ミュージック・マガジン(現ミュージック・マガジン)は、この人が編集長をしていた
1972年(創刊は1969年)から1989年までの17年分のすべてが本棚にある。
ちょっと恥ずかしい話だが、田舎のロック少年には、この雑誌がバイブルだったのだ。
なかでも、創刊以来ずっと連載されているコラム「とうようズトーク」は、それを読むためだけに
この雑誌を買う人がいるというくらいに有名な硬派コラムで、この本には、そんなとうよう氏の
30年間にわたる音楽評論のコアが集大成されている。
1 ワールド・ミュージックに向けて
2 同時代音楽ウォッチング30年
3 ロックのための追悼文
4 ディヴィッド・バーンの仕事
5 ハムザ・エルデーィンという人
6 音楽文化の周辺
7 ブラック・ミュージックの変質
8 ジャズのゆくえ
9 テレサ・テンをめぐって
10 美空ひばりと都はるみ
11 地球の裏は朝だった
今ではもうひとつの音楽ジャンルになってしまった「ワールド・ミュージック」という概念は、
この人がつくったといってもいいんじゃないかと思う。
□ ハチ公の最後の恋人 吉本ばなな 中央公論社 19960607 初版
装幀が良かったので、文庫本でもっているのは覚えていたけれど、つい買ってしまった。
少し幅が広い変形の判型、カバーではなく、折り返し=見開きになっている表紙の裏表に配された
サーファーの写真の絶妙の構図、見返しの朱色と芥子色の扉、裾に余白をとった本文のレイアウト。
ひと目で人を惹きつける、力のあるデザインは中島英樹。 さすがである。
中身は、典型的な「ばなな節」。
彼女の「亡くなっていくもの」への描写は、当代一と言いきれる。
微妙なところで、切なさがセンチメンタルに陥らないのが、作家としてのこの人の実力だろう。
ラストシーンで、初出からの手直しがあるらしい。
□ 菊池君の本屋 永江朗 アルメディア 19981111 第7刷
菊池君の本屋、「ヴィレッジ・ヴァンガード」のルポルタージュで、本に興味はあったが700円は
ちょっと高いなあと思ってたら、均一棚に下がってきたので即ゲット。
本屋としてあの雑貨的なスタイルを真似たいとは思わないが、ショップを立ち上げた人(菊池君)
がどのように考え、どのようにそのカタチを実現させたのかは、ちょっと気になる。
けっきょくどの商品でもそうだが、消費者の像をどう描くかに尽きる。
ヴィレッジヴァンガードは、ある種の消費者の映像ををピンポイントで掴んでいるに違いない。
「ジオラマのような書店」というのは言い得て妙な表現だ。
15年前の本だから、情報としては少し古いけど、巻末の「定番1200」は、とても面白い。
これらを揃えれば、とりあえずヴィレヴァンもどきがオープンできるんだから。
□ 真贋 吉本隆明 講談社インターナショナル 20080414 第10刷
ばななを買って父親をはずすわけにはいかない。
吉本隆明としては珍しく柔らかく感じるのは、この本が本来の意味の著作ではなく、編集された
インタビューだからじゃないだろうか。
「まずは、どうでもよさそうなことから考えてみる。そういった視点が必要なのではないか。」
もちろん隆明さんの、その柔軟な視点も充分に魅力的で、ハッとさせられるところもたくさんあるが、
世評あるいは時評ともいえる、この本で価値があるのは、
文句なしにいい作品というのは、そこに表現されている心の動きや人間関係というのが、俺だけに
しかわからない、と読者に思わせる作品です。この人の書く、こういうことは俺だけにしかわからない、
と思わせたら、それは第一級の作家だと思います。
というシンプルな、批評のモノサシを提示してくれたことじゃないかと思う。
このモノサシは、文学だけでなく、絵画や写真や音楽といった芸術一般にも通じる批評眼だろう。
インタビューで、隆明さんが手振りを交えて、ちょっと老人的に同じことを繰り返す姿が目に浮かぶ。
「真贋」というタイトルがよくその思想を現している。
「真贋」の見分けが、批評だけじゃなく、生きることのすべてといってもいいかもしれない。
□ 随筆三国志 花田清輝 筑摩書房 19691115 初版
どうしてこの人の本を手にしてしまうのかさっぱりワカラナイ。
どんなトラウマやねん、とついツッコミたくもなる。
小説を4冊
□ みずうみ よしもとばなな フォイル 20051208 第1刷
□ 生きる歓び 保坂和志 新潮社 20000730 初版
□ おめでとう 川上弘美 新潮社 20001120 初版
□ 国旗が垂れる 尾辻克彦 中央公論社 19830120 初版
文学を2冊
□ ヒコーキ野郎たち 稲垣足穂 新潮社 19691010 初版
□ 鍵 谷崎潤一郎 中央公論社 19570201 8版
その他、乱雑に
□ 雅美生活 北大路魯山人 梶川芳友 何必館・京都現代美術館 19970624
□ ドゥ・ザ・レフト・シング 伊達政保 批評社 19910325 初版
□ 家具の本 内田繁 晶文社 20011030 初版
□ 波うつ土地 富岡多恵子 講談社 19830624 第1刷
□ 全身小説家 原一男 キネマ旬報社 19941103 第2版
□ やし酒飲み エイモス・チュツオーラ 晶文社 19880610 11刷
□ 色彩調和と配色 星野昌一 丸善株式会社 19630910 第7刷
最近追加した「ART ― 絵画や写真についてのあれこれ」のブックリスト。
http://kotobanoie.com/
