books: 2009年12月アーカイブ
盲目的に、スーザン・ソンタグ(1933-2004)が好きだ。
才色兼備、異性に興味がないらしいのが残念だけれど、とにかくイイ女だと思う。
「反解釈」「ラディカルな意志のスタイル」「土星の徴しの下に」「 I, etcetera 」
挑発的なタイトルを持つ彼女の作品たち。
コトバノイエのブックリストのなかでは、澁澤龍彦やカポーティや花田清輝や吉本隆明なんかと
同じように、本棚に本はたくさんあるのに実はまだほとんど読んでいない、というちょっと微妙な
ジャンルに属する人だけれど、彼女の本が本棚にあるだけで、なんとなく気分がいいのだ。
丸善の画集の上に置かれた「檸檬」、みたいな感じかな。
そんなソンタグの本がまた一冊増えた、久しぶりの新刊買いである。
□ 良心の領界 スーザン・ソンタグ NTT出版 20060421/初版第4刷
ソンタグが最後に来日した2002年に、彼女を囲んで行われたシンポジウムを中心に編まれた、
エッセイと講演のコレクションだ。
1 シンポジウム「この時代に思う--共感と相克」 Tokyo 2002/4
(パネリスト=浅田彰+磯崎新+姜尚中+木幡和枝+田中康夫)
2 現実の戦闘と空疎な暗喩 New York Times 2002/9
3 「デア・シュピーゲル」インタヴュー Der Spigel 2003/3
4 勇気と抵抗について オスカール・ロメロ賞授与式基調講演 2003/3
5 インドさながらの世界―文学の翻訳について 聖ヒエロニスム記念講演 2002/9
6 文学は自由そのものである ドイツ平和賞受賞記念講演 2003/10
7 美についての議論 Daedalus 2002/Autumn
いかにもソンタグらしい手強そうなタイトルが並ぶが、なによりも彼女がこの本に寄せた、
序文のメッセージが心に残る。
この本のタイトルにもなった「良心の領界 (The Territory of Conscience) 」という一文。
それは、このように始まる。
人の生き方はその人の心の傾注(アテンション)がいかに形成され、また歪められてきたかの軌跡です。
注意力(アテンション)の形成は、教育の、また文化そのもののまごうかたなきあらわれです。
人はつねに成長します。注意力を増大させ高めるものは、人が異質なものごとに対して示す礼節です。
新しい刺激を受けとめること、挑戦を受けることに一生懸命になってください。
The pattern of people's lives is a track based on how one's attention has been formed and how it has been warped. Forms of attention are exactly the outcomes of education and culture themselves.
People always grow. What increases and elevates one's attention are the proprieties that people show against alien things. It's hard to take in new stimuli and to work on it.
彼女が言う " attention " は、「注意力」というより、「思いやり」といったニュアンスだろう。
そしてそれは、自分とは違うものや理解できないものに対する礼節から始まるのだと言っている。
そういう新しい刺激を受け入れ、取り組むのはけっこう難しいことなんだとも。
つまり、わけのわからないものを怖れずに、真っすぐにものごとを見つめようということだ。
そのために本を読むのは、ひとつのアイデアだと提案する。
本をたくさん読んでください。
本には何か大きなもの、歓喜を呼び起こすもの、あるいは自分を深めてくれるものが詰まっています。
その期待を持続すること。
二度読む価値のない本は、読む価値はありません。
(ちなみに、これは映画についても言えることです)
Read books a lot.
Books filled with something big that awakes pleasure or that deepens you.
Keep up your expectations.
The books which aren't worthy of reading twice aren't worth reading.
(By the way, we can say the same thing about movies.)
もちろん注意すべきこともある。
言語のスラム街に沈み込まないよう気をつけること。
Be careful not to sink into the slam of words.言葉が指し示す具体的な、生きられた現実を想像するよう努力してください。
たとえば、「戦争」というような言葉。
Try to imagine the specific, lived reality.
For example, the word such as "war."
極めつけはこのメッセージ。
すでにいくつかのウェブサイト上で紹介されているから、知っている人がいるかもしれない。
それは、こんな風だ。
動き回ってください。旅をすること。
しばらくのあいだ、よその国に住むこと。
けっして旅することをやめないこと。
もしはるか遠くまで行くことができないなら、
その場合は、独りでいられる場所により深く入り込んでいくこと。
時間は消えていくものだとしても、場所はいつでもそこにあります。
場所が時間の埋めあわせをしてくれます。
Move around. Go travelling.
Live abroad for a while.
Never stop travelling.
If you can't go far away,
in that case go deeply into places you can be by yourself.
Even if time is disappearing, places are always there.
Places compensate for time.
なんとも刺激的なフレーズ。
ソンタグのポジティブな思想そのものが、くっきりと表現されている。
簡単なことを難しく表現するのは、彼女のひとつのスタイルだが、この文章はとてもシンプルで、
この一文にめぐりあっただけでも、この本の価値がある。
そして、さらにこんな言葉を続けられるのが、彼女がすこぶる男前な批評家たる所以である。
世界では、ではビジネスが支配的な活動に、金もうけが支配的な基準になっています。
ビジネスに対抗する場所、あるいはビジネスを無視するという考え方を持ち続けてください。
独りになりたいと考えるなら、脆弱で、気持ちの足りないものごとに対抗するパワーになり得ます。
In this world, businesses are dominant activities, and making money is a dominant standard.
Maintain the philosophy of places to counter business or don't care about business.
If you want to be by yourself, you can be a power to counter the things that are weak and lack heart.暴力を嫌悪すること。国家の虚飾と自己愛を嫌悪すること。
Hate violence. Hate the decollation and narcissism of the country.少なくとも一日一回は、もし自分が、パスポートや冷蔵庫や電話をもたずにこの地球上に生き、
飛行機に一度も乗ったことのない、膨大で圧倒的な数の人々の一員だったら、と想像してみてください。
Imagine at least once a day that if you are one of the majority who live on the earth
without passports, fridges, and phones and who have never got on planes.
サブタイトルが、" 若い読者へのアドバイス(Advice for Young Readers) " 、
そして、「これはずっと自分自身に言いかせていることでもあるんだけど」、とその傍書きにある。
おそらく死の病床で記されたこの文章は、その年に亡くなったソンタグの遺言としか思えない。
Comfort isolates.
安寧は人を孤立化させる。Solitude limits solidarity ; solidarity corrupts solitude
孤独は連帯を制限する、連帯は孤独を堕落させる。by Suzan Sontag
「女は何かをめざしたら、決してためらわないということを、そしてそのすべてが言葉にできるのだということを、
そのマグネティックな魅力に富んだラディカル・スタイルをもって告げつづけた人である( by Seigow )」
世の中のすべての女性に、彼女の存在を知ってもらいたい。
*
師走の本買記
電車で本買いなんてできるもんじゃないと、よくわかった。
36冊の本をかかえて地下鉄を乗り降りするなんて、正気の沙汰じゃない。
いまさらだけど、本ってすごく重いのだ。
□ 行きつけの店 山口瞳 TBSブリタニカ 19930615/初版第3刷
内容も濃く、造本も美しいこの本が、マーケットプレイスではバカみたいな安値で売られているけれど、
その本に、山口瞳の達筆の揮毫と落款があるとしたら、話は別だろう。
こういうものを書き終わって、いま私の心に残るものは、意外にも " 時の移ろい " である。
あれが美味かった、あそこの眺めがよかったではなく、あの時のあの人の笑顔がよかった
という類いのことである。それは私の瞼に焼きついている。私はそのことに驚く。
この律儀な文体が山口瞳。
草競馬放浪記、温泉へ行こう、新東京百景、血涙十番勝負、この人の紀行エッセイの味わいは格別だ。
ライフスタイルはちょっと粋すぎて、とても真似ができそうもないが、軽妙で簡素で滋味深い文章には
ちょっと憧れる。先生とでも呼びたい気分だ。
太田和彦の装幀も秀逸。
□ Walk Away Rene : Work of Hipgnosis HIPGNOSIS PAPER TIGER 19780701
12インチのマジック。
ヒプノシスは、70年代にピンク・フロイドやレッド・ツェッペリンといったのレコード・ジャケットを、
知的でシュールな感覚(それもCGじゃなく)でデザインした英国のデザインチームだ。
ロックを感じさせるデザインということでは、間違いなく最高のチームだし、なによりもイギリスっぽい。
12インチのスリーブデザインをアートに高めたのは、このチームの功績だろう。
この本は、かれらの唯一の作品集、A4サイズのソフトカバーに、彼らが1968年から1978年までの
10年間にデザインした、ほぼすべてのグラフィックが網羅されている。
CGではない。
時代なのかも知れないが、研ぎすまされた感性は、デジタルでは表現できないと信じたい。
□ ブライアン・イーノ エリック・タム 水声社 19940605/第1版第1刷
今年の始めには、デヴィッド・バーンのコンサート(イーノとの共作のプロモーションツアーだった)、
つい先日もアンヴィエント・シリーズの「The Plateaux of Mirror」と彼がプロデュースした Coldplay
の「Viva La Vida」を買ったし、ダウンロードしたiPhoneアプリの" Bloom " もとても気に入っていて、
あんまり意識していなかったけれど、けっこうイーノが好きなんだと気がついた。
そこでイーノの本。
もう一冊「 A YEAR 」という1995年のブログ風の日記があるが、そっちはちょっと高すぎる。
この本は、バークレーで博士号をとった音楽学者が分析したブライアン・イーノとその作品の評論集だ。
自身の博士論文を展開させたものらしい。
単独のミュージシャンやその音楽を解説した本というのは、基本的には退屈で、この本も例外ではない。
ただ、イーノのような多面体を俯瞰的に理解しようとするなら、ガイドブックは必要だろう。
この本なら、その役割を果たしてくれるに違いない。
そういう意味では、なかなか読みごたえのある力作だ。
□ 偏愛的作家論 澁澤龍彦 青土社 19720610/初版
石川淳、三島由紀夫、稲垣足穂、野坂昭如から瀧口修造、泉鏡花、花田清輝そして江戸川乱歩、
久生十蘭、小栗虫太郎など、澁澤さんが偏愛するという日本の作家24人の様々が、語られている。
いつもながら、シンプルで美しい造本。
書評や月報といった雑文の寄せ集めだから、「作家論」というタイトルはやや羊頭狗肉だ、と本人は
述懐しているが、どういうメディアで発表するにしても、自分の書くものに手を抜けるような人では
ないはずだから、どの文章も澁澤的美学にあふれた批評として、完成されている。
いかにも真面目な文体なので、つい難しく読んでしまいそうになるけれど、じつはユーモアに溢れて
いるのがこの人の持ち味でもある。 ユーモアは、知性のひとつの表現なんだから。
これが要するに私の好きな近代現代の作家たちで、好きでない作家については、私はもともと
文章を書かないから、すべてオマージュに終始している。
小林秀雄のいうように、作品や作家に対する愛がなければ批評なんてできるものではないし、
そもそも人は、たとえそれが文章のプロであっても、好きなもの、あるいは嫌いなものについてしか
語ることはできないのだ。
そして、「嫌いなもの」と「好きなもの」は、ひとりの人間の中では、ほぼ同義語と考えていい。
読んだわけではない。
ソンタグと同じように、本棚に澁澤龍彦の本があるということが、なによりも大切なことなんだ。
ひょっとしたら、そのことを「偏愛」というんだろうか。
□ ROLLING STONE/THE COMPLETE COVERS 1867-1997 Jann.S.Wenner ABRAMS 19980330
□ 東洋の美学 水尾比呂志 美術出版社 19630820/初版
□ ワーズ・ワード ジャン=クロード・コルベイユ 同朋社出版 19931225/第1刷
□ 初稿 眼球譚 バタイユ/オーシュ卿 奢霸都館 199702/初版
□ 重森三玲 庭園の全貌 中田勝康 学芸出版社 20090920/第1版第1刷
□ 捨てるVS拾う 私の肯定的条件と否定的条件 横尾忠則 NHK出版 20030130/第1刷
□ エスケイプ/アブセント 絲山秋子 新潮社 20061220/初版
□ シュガーな俺 平山瑞穂 世界文化社 20061110/初版第1刷
□ クライムクラブにようこそ スクラップブック18 植草甚一 晶文社 19780120/初版
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BOOKS+コトバノイエのポップアップストア「 one coin / one note 」が、中津にオープンしています。
12月・1月の期間限定のブックショップなので、ぜひお越しください。
年末年始( 12/27 - 1/5)と日曜はOFF、店主は水曜日に必ず在店いたしております。
I wish you a Merry Christmas and a Happy New Year !
近藤さんからこんなフライヤーを添えたメールをいただいたのは、10月の初めだった。
路面のスペースをポップアップ・ストアとして実験的に体験できるのはまたとないチャンスだし、
近藤さんの、オフィスを町に向かって開いてきたいというメッセージも共感できるものだったから、
なんとか実現したいなあとすぐ思った。
その想いは、実際の場所を目の当たりにし、近藤さんの話を聞いても変わらなかったけれど、
とにかくまったくやったことのないことだったから、短期間にせよ、どうやって運営するかという
アイデアが、すぐには思い浮かばなかった。
どういう構成で組み立てるのか、どういうスタイルにするのか、そして何よりもフルタイムでそこに
居られないんだから、それをどう解決するか。近藤オフィスに負担をかけるわけにはいかないし、
だからといってアルバイトを雇って店番させるんじゃ意味がない。
一日や二日のことじゃないから、その辺が見えてこないうちに返事はできない。
one coin のアイデアが浮かんだのは風呂の中だった。
別にアイデアというほど新しいものじゃないけれど、ぜんぶ100円、つまり100円玉のやり取りだけ
だったらすごく簡単に、誰にでも店番してもらえるかもしれないと思い当たったのだ、もちろんそれも
近藤オフィスの協力がなければ成り立たない話ではあるけれど。
ただ100円の本だけじゃ原価割れで仕事にならないから、一個のコインと一枚の紙幣という組立て
にして、100円の本をフック、500円をヴォリューム、そして1000円の本をバリューと考える。
一枚の紙幣として2000円や5000円や1万円のラインも浮かんだが、そこは思い切ってシンプルに。
そこまでいけば、それぞれの価格帯をラベルの色で見分けるようにすることや、one coin / one note
というタイトルや、ディスプレイまでが、一瀉千里に映像として頭の中を廻りだした。
これならいけるかもしれない。
古本屋のスタイルとしても、ちょっと斬新な感じがするし。
Let's get it on !
11月25日 水曜日
BOOK SHOP one coin / one note のプレ・オープニング
10時少しすぎに近藤オフィスに到着。
初売りはお隣の食事処「純子」の純子さん、司馬遼太郎の「韃靼疾風録」を買っていただいた。
どんなカタチであれ、まずは本が売れないことには始まらないわけだから、これがスタートだ。
奥のスペースにしつらえていただいた帳場に座れば、古本屋のオヤジである。
近藤建築研究所にはネット環境も整っているから、MacBookをひらけば仕事場にもなる。
なんかいい感じ。
中津という町は今まで全く縁がなかったところだが、梅田のすぐ近くなのになんか下町の風情があって、
雰囲気があたたかい。そういえば、昔行ったことのある「カンテ・グランデ」といういい感じのチャイ屋も
たしかこの辺だったはずだが、まだあるのかしらん。
初日の売上は、17冊 3,700円、思ったよりいけてる。
11月26日 木曜日
夜、近藤さんからメールで報告をいただく。
本日の売り上げ
100円 15冊
500円 5冊計 4,000円
売れると楽しいですね。
いかにも。
11月27日 金曜日
SPOT LIGHT のセレクションをお願いした「Meets Regional 」の半井さんから取材のメール。
11月28日 土曜日
こども店長を派遣。
この日は、近藤オフィスのガラスファサードに、コトバノイエの名刺でお世話になった山崎さんが
デザインしてくれたショップロゴを、カッティングシートで貼ってもらうことになっている。
気になって夕刻駆けつけたら、すっかりショップらしくなっていた。
土曜日は人通りが少ないようだ。
この辺の感じは、もう少しやってみないとつかめないんだろうな。
明日の日曜日はどうだろうか。
11月29日 日曜日
2回目の店番。
この4日間で、思わぬ数が売れたので、ショップに行く前に仕入れをした。
もちろんなんでもいいわけじゃなく、コトバノイエの本棚にあってもいい本というのがモノサシだから、
いつもあるというものでもないが、それでも100円売りの単行本と文庫を合わせて40冊ほど買えた。
買ってきた本をデータベースに入力して、プライスの目印の丸い小さなシールを裏の見返しに貼る。
赤ラベルは100円、青ラベルは500円、黄色ラベルは1000円。
午後は半井さんの取材。
近藤さんと一緒に、ここにいたる経緯や,考えていることをざっくばらんに話す。
半井さんには、また何冊か買っていただいた。
この人はコトバノイエの女神である。
DOCUMENT : WED. DEC.2, 2009
10:37 Keb' Mo' " Suitecase "
アコースティックでルーズなブルースでオープン。
近藤さんのオフィスが10時からなので、できればその時間に到着したかったが、野暮用を済ませて
いるうちに少し遅くなってしまった。
すでにスタッフの下田さんが100円の箱を、オーニングの下に出していてくれている。
人通りもけっこうあって、何人かの人がその100円の本たちを覗いていく。
10:58 Walter Becker " Circus Money"
ショップスペースの奥の帳場に座ってMacBookのセッティングをしていたら、50代とおぼしき
オバサンが文庫を一冊手に持って入ってきた。
「吉村昭なんかないかなあ」
「いあや、ちょっと今は置いてないですねえ、小説が少ないですからねえ」
「司馬遼はほとんど読んでしもたしなあ、あ、このラスプーチンゆうのん面白そうやん」
山田風太郎の「ラスプーチンが来た」である。
それを手にとって横の100円棚に移り、春樹の「シドニー」を見やった。
「村上春樹やねえ」
「ええ、それ安いと思いますよ」
「本が増えてどうしようもないねんけど、安かったら買ってしまうねんなあ」
「本て勝手に増えますからねえ」
「あと、この文庫も軽そやから買うとくわ」
「あほらし屋の鐘が鳴る」斎藤美奈子/「ラスプーチンが来た」山田風太郎/「シドニー!」村上春樹
そのオバサンが帰ってまもなく、おばあさんが文庫本を一冊を持って椅子に腰掛けた。
バッグから一片の紙を取り出して本と見比べている。
「どうしたんですか」と覗き込むと細かい字で本のタイトルが書いてある。
手にしているのは、松本清張の「陸行水行」。
「清張さんのファンやねんけど、おんなじ本何回も買うてしまうから持ってるやつ書いたんねん」
その気持ちとてもよくわかります。
ダブり買いをすると、自分のバカさ加減に腹が立ってしまうんだよね。
残念ながら手にしている「陸行水行」は、その持ってる本リストにあったようで、
「あ、やっぱりこれあるわ」
リスト効果抜群である。
さらにそのおばあさんは、持ってる本リストだけでなく、手描きの未読リストも持っていて、
できれば探してあげたいなあと思ったので、そのリストをコピーさせていただいた。
こういう人のために本を仕入れるのは本願である。
おかしかったのは、その未読リストにもタイトルのダブりがあったことだ。
「球形の荒野」という渋いタイトルの本。
「おばさん、これダブってますやん」
「ほんまやなあ、ハハハ」
このおばあさん、昨日も来たそうだ。
再来店を約して彼女が店を離れたのは、11時32分、時間がたつのが早い。
11月25日のプレオープンから、店番をするのはこれが3回目だが、町に面したショップスペースの
ガラス越しに、100円箱の本をのぞいていく人の表情を眺めるのはとても愉しいし、見知らぬ人と
本の話をするのも新鮮な感じ。
コトバノイエで感じることができなかった「本を売る」ということのリアルな感触が、ここにはある。
それを感じさせてもらえただけでも、近藤さんには感謝したいと思う。
12:42 Carla Bruni "No Promises "
12時を過ぎると、ランチブレイクで人通りが多くなる。
たぶんこの時間帯が、いちばんのビジネスチャンスなんだろう。
1時少し前、自転車に乗った若いカップルが立ち止まり、文庫箱を見たあと店に入ってきた。
雑誌やアートブックを眺めながらなにか話してる。
慣れない店主なので、こんなとき声をかけたほうがいいのか迷ってしまう。
2人でいろいろと品定めをし、マルク・ドゥ・ストメ/中沢新一訳の「禅の言葉」をお買い上げ。
代金をいただくときに、
「これなかなかいい本ですよねえ」
と呟いてはみたが、いかにもぎこちない。
このあと、少し手が空いたので近藤事務所のスタッフ下田さんとしばしカメラ談義。
なんでも彼は最近フィルムのカメラに興味を持っているそうで、F3を見せる約束をしていたのだ。
下田さんは24歳、物心ついたときにはすでにデジタル全盛だったそうだから、フィルムの一眼レフ
のあのメカニカルな、いかにも精密機械といった姿は、きっと新鮮なんだろう。
現像ができあがってくるまでのあのドキドキ感は、すぐに結果の見れるデジタルカメラにはないもの
だから、それを味わってみてもらいたくて、F3に36枚撮りのリバーサルを装填して手渡した。
とにかく昼休みで36回シャッターを押してごらんよ、というところかな。
昼飯は、このショップの第一本買い人純子さんのお店で、お好み焼き定食。
14:18 Keith Jarrett " The Koln Concert "
2時過ぎに、中年男性が文庫本3冊を手にもって帳場へ。
東野圭吾2冊と、佐野眞一「東電OL殺人事件」。
清算のときラベルの色のことを尋かれた。
文庫本はぜんぶ100円にしてあるからラベルを貼っていない、実は玉石混淆なんだけれど。
続いて、学生さんらしい青年。
村上春樹「蛍・納屋を焼く、その他の短篇」と浅田彰「逃走論―スキゾ・キッズの冒険」
スキゾ/パラノの団塊蔑視論をどれだけわかってもらえるかはいささか心もとないが、
若い人がこういう本を町の古本屋で100円で買うことは、断固支持したい。
煙草より安いお金で、2つの爆弾を自分の居場所に置くことになるのだから。
読まなくたってぜんぜんかまわない、Book is not just for reading なのだ。
15:09 Sheryl Crow " Tuesday Night Music Club "
3時近くになって落ち着いた気配だったので、下田さんに店番をお願いして、定例の本買いと、
美容院 Smile Seed の月例コーディネーションに走る。
美容院は月単位の契約だから必ず行かなくてはならないし、本買いも、このショップがいいペースで
売れていってくれているので、補充のための仕入れをしなくてはならない。
なにより本買いの愉しみを、犠牲にするわけにはいかないのだ。
急ぎ足の本屋だったため、いつものようにじっくりとはチェックできなかったが、収穫はあった。
□ 封印された星 -- 瀧口修造と日本のアーティストたち 巌谷國士 平凡社 20041205/初版第1刷
シビれる造本、署名入り。
17:41 Bill Evans Trio " Waltz for Debby "
5時過ぎにショップに戻り、買ってきた本(もちろんおばあさんの清張もあります)を整理していたら、
ガラス越しに見たことのある人の姿。
コトバノイエを設計してくれた矢部さんと、彼の先輩リョーへイさんが立ち寄ってくれたのだった。
追ってリョーヘイさんのオフィスの長江さんも合流。
見知らぬ人とのセッションも楽しいけれど、こうやって駆けつけてくれる知己もありがたい。
ビールも開いて、ワイワイガヤガヤと小1時間。
18:54 Tom Waits " Closing Time "
日没閉店。
みんなで野田矢部邸に移動した。
倉俣史朗さんが言っていたように、ショップスペースとは祝祭の空間なのだと思う。
だからこそ、新しいことがそこから発信され、リニューアルや改築が繰り返されるのだ。
このショップも、BOOKS+コトバノイエも、いつも新鮮な、どこにもないブックストアでありたい。
近藤さんが、Meets のインタビューで言っていた、
「これも僕にとっては建築なんです、完成されない建築です」
という言葉が忘れられない。
good luck, one coin / one note.
*
店番の間隙をぬっての、果敢な本買い。
でもそれなりに集まった。
□ ポスターを盗んでください+3 原研哉 平凡社 20090917/初版第1刷
□ アンリ・ミショー ひとのかたち 東京国立近代美術館 平凡社 20070702/初版第1刷
□ モーターサイクル南米旅行日記 エルネスト・チェ・ゲバラ 現代企画室 19971008/初版第1刷
□ 10年目の「センチメンタルな旅」 荒木経惟・陽子 冬樹社 19820707/初版第1刷
□ ドゥエイン・マイケルズ写真展 図録 Duane Micals PPS通信社 19990203/初版
□ WHAT IS OMA ヴェロニク・パテヴ TOTO出版 20050530/初版第1刷
□ シュルレアリスム簡約辞典 ブルトン/エリュアール 現代思潮社 19710630/初版
□ 今日をひらく 太陽との対話 岡本太郎 講談社 19670324/第1刷
□ 愛書狂 生田耕作編訳 白水社 19810305/第4刷
□ 月曜日は最悪だとみんなは言うけれど 村上春樹編・訳 中央公論新社 20000510/初版
□ 5Bの鉛筆で書いた 片岡義男 PHP研究所 19830725/第1刷
□ はだか 谷川俊太郎詩集 谷川俊太郎 筑摩書房 19880730/第6刷
□ 春灯雑記 司馬遼太郎 朝日新聞社 19911101/第1刷
□ 十六の話 司馬遼太郎 中央公論社 19931020/初版
□ 続 大きな約束 椎名誠 集英社 20090630/第2刷
□ 名残り火 藤原伊織 文藝春秋 20070930/第1刷
*
最近追加した「これが HIP ! だ」のブックリスト。
SPOTLIGHT 企画、「 his master's choice - BOOKS+コトバノイエ 晶文社の30冊 」公開中。
