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まさかゴダールの新作が、この2011年に観られるなんて思わなかったな。

ジャン・ポール・ベルモンドもアンナ・カリーナも、それはカッコイイけれど、
ヌーヴェル・ヴァーグといえば、やはりこの人しかいない。

■ ゴダール・ソシアリスム  Film Socialisme     J.L.ゴダール   VEGA FILM    2010    

まず、Film Socialisme というタイトルに痺れる。

ゴダールがいう2010年の「ソシアリスム」とは、この作品の中でも語られているように、
政治システムとしての社会主義ではなく、「国家」というボーダーのない世界ということだ。

それは、この映画の舞台となる豪華客船ゴールデン・ウェブ号(これもまた象徴的な)が、
最初に寄港するエジプトや、カダフィのリビアで、まさに今起こっていることではないのかと、
この80歳になる生粋の映画監督の、シャープな世界観に震撼とさせられる。

溢れでるような言葉の洪水。

装飾のない感性そのままの、スクリーンショット。

イメージと言葉のコラージュ。

光はなぜある? 闇があるから
ALISSA
カッサンドラ 黙ってお聞きなさい
今や 悪い奴らが真剣だ
民主主義と悲劇はアテネで生まれた
砂漠を 想像してごらん
私は弟を愛している
太陽を襲ってやる 太陽が襲ってくるのなら
空間は死んでいく
伝染病は古来から大事件だ
自由は高くつく!
沈黙は金
言葉のあらゆるイメージを退避させること
私の心は 私の口の中にはない
BE 動詞を使うな
私たちは夜はたらく
幸福なヨーロッパを再び見ることなく・・・


映画は、ひとつのシンフォニーとして構成されていると、ゴダールは言っている。

第1楽章 <こんな事ども Des Choses comme ca >
第2楽章 <どこへ行く、ヨーロッパ  Notre Europe>
第3楽章 <われら人類 Nos Humanites>

朦朧としながら観ていたので、シノプシスはほとんど覚えていないが、時々スクリーンに
立ち現れる美しい映像と、「お金は社会のもの」、「水と同じ?」に始まり、「BE動詞を使うな」、
さらに「私の心は 私の口の中にはない」、そしてエンディングの決定的な一撃にいたるまでの、
ゴダール的メッセージに、揺さぶられ続ける。

交響楽というより、ランボオの詩のような映画だった、と家に戻り、反芻しながら思う。

―  見つかった、
―  何が?
―  永遠が、
―  海と溶け合う太陽が。

46年前の『気狂いピエロ』のエンディング・シーンの南仏の海が、この映画に続いているようだ。


ゴダールは、ROCKだ。

黒澤明は、晩年どんどん幼児化していったけれど、ゴダールは疾走し続けている。
考えてみれば、『勝手にしやがれ』を撮った彼は、まだ20代だったのだ。

全編を通底して流れる葬送曲のようなパイプオルガンの音が頭から離れない。

遺言状とは到底思えない。

死ぬまで前衛。


*


晩冬の本買記。

面白い本も、つまらなかった本も、綺麗な本も、珍しい本も、楽しい本も、役に立つ本も、
シブイ本も、ロックな本も、パンクな本も、HIPな本も、難解な本も、お茶目な本も、
呑気な本も、せっぱつまった本も、ほんとうにいろんな本があって、そんな本のことを
少しでも書きたいのは山々ではあるけれど、カレンダーをかえりみれば、今日すでに26日。

「逃げる」といわれる2月も、考えてみればあと2日しか残されていないわけで、
しかも明日27日は、土屋さんのところでの宴会、明けて月曜日は「百花の百本」の
月一回のメンテナンスと、すでに予定が埋まっており、なんとしても月に2本はアップ
したいというこのブログの本願を成就するためには、この原稿は今日中に書き上げて
しまわないといけないという、重大な局面に陥り。

前回のブログを書き上げた日が浅かったので、今月こそはと、もう何日も前から書き
始めていた原稿は、ムッシュ・ゴダールのおかげで前面改題を余儀なくさせられ、
けっきょく日程は先月と重なり、しかもあと2日。

そんなわけで、この本買記、タイトルの羅列のみという不始末御免。

目ぼしいところを拾い上げて、数えてみればちょうど50冊。
こうやってそのリストを眺めてみると、あたりまえのことながら、読んでみたい本ばかりで、
きっといつかこのうちの何冊かについて、語る機会ががあるんじゃないかと思います。

たとえば、内田百閒の『波のうねうね』という粋な随筆集のことやJoel Joel Meyerowitzs の
 『Wild Flower』という写真集の入手の顛末、池澤夏樹がセレクトした文学全集のこと、
そして最近ちょっと嵌っている『創造の小径』という70年代の新潮社の叢書のことなんか。

HPへの掲載も、早くやりたいし。


□ 草庵茶室の美学     古田紹欽    雪華社  19670325/初版
□ 茶の本     岡倉天心    淡交社   19941027/初版
□ 茶室の材料と構法     北尾春道    彰国社   19670710/第1版第1刷

□ 隠れた秩序     芦原義信    中央公論社   19860320/初版
□ 小さな家の気づき     塚本由晴    王国社   20070315/3刷
□ 建築家の言葉     エクスナレッジ    20101028/初版第1刷
□ MOD EAST     コモエスタ八重樫    TOTO出版   20040420/初版第1刷
□ 住宅巡礼     中村好文    新潮社   20000225/初版

□ エリック・サティ     ジャン・コクトー    深夜叢書社   19861210/新版第5刷
□ ダダ 芸術と反芸術     ハンス・リヒター    美術出版社   19770720/第10刷
□ これはパイプではない     ミシェル・フーコー    哲学書房   19860425/初版
□ 悲しき熱帯 上・下     レヴィ・ストロース    中央公論社   19810410/4刷

□ 贋作吾輩は猫である     内田百閒    六興出版   19830430/5刷
□ 波のうねうね     内田百閒    新潮社   19640831/初版
□ 麗らかや     内田百閒    三笠書房   19680131/第1版
□ 日没閉門     内田百閒    新潮社   19710630/2刷

□ ポール・ランド、デザインの授業     マイケル・クローガー   BNN新社  2008100/初版
□ デザインの輪郭     深澤直人    TOTO出版   20060101/初版第2刷
□ 和力 日本を象る     松田行正    NTT出版   20080428/初版第2刷
□ スモール・アンド・ビューティフル    慶應義塾大学DMF   いちい書房   20050927/第1版第1刷
□ 倉俣史朗とエットレ・ソットサス  21_21DesignSight展覧会ブック   ADP   20101203/初版第1刷
□ ページと力     鈴木一誌    青土社   20070220/第2刷

□ 一人の男が飛行機から飛び降りる     バリー・ユアグロー    新潮社  19980310/9刷
□ TIMBUKTU     Paul Auster    Faber & faver   1999
□ アフリカの日々/やし酒飲み  池澤夏樹-世界文学全集   河出書房新社  20080630/初版
□ 優雅な生活が最高の復讐である     カルヴィン・トムキンズ   リブロポート  1984

□ Satori in Paris     Jack Kerouac    Grove Press  1966/2nd
□ ON THE ROAD     Jack Kerouac   Viking Press   196912/12th

□ ハリウッドのある一日      高野育郎    PARCO出版   19900717/初版
□ Wild Flowers     Joel Meyerowitzs    New York Grphic Society Books  1983
□ 写真の力     飯沢耕太郎    白水社  19950125/初版
□ ふたりのあいだ    エリオット・アーウィット   マグナム・フォト東京支社   19940625/初版第1刷

□ 想像力の散歩 創造の小径     ジャック・プレヴェール   新潮社  19770930/初版
□ マヤの三つの太陽 創造の小径     M,A.アストゥリアス    新潮社  19790330/2刷
□ イカロスの墜落 創造の小径     パブロ・ピカソ    新潮社  19740910/初版
□ 冒頭の一句または小説の誕生 創造の小径     ルイ・アラゴン    新潮社  19750710/初版

□ アルゼンチンババア     よしもとばなな    ロッキングオン   20021225/初版
□ ボーイフレンド物語     富岡多恵子    講談社   19750220/初版

□ 旅する巨人 宮本常一と澁澤敬三     佐野真一    文藝春秋   19970425/第3刷
□ ハッセルブラッド紀行     田中長徳    エイ出版   20061130/第一版第1刷
□ じつは、わたくしこういうものです    クラフト・エヴィング商會   平凡社   20020214/初版第1刷
□ ナンセンスの練習     草森紳一    晶文社   19711130/初版
□ 骨董夜話     白洲正子他    平凡社   19750721/初版第2刷
□ 土屋耕一のガラクタ箱     土屋耕一    誠文堂新光社   19750131/初版 
□ 焼物雑記     井伏鱒二    文化出版局   19850120/1刷
□ 森を読む種子の翼に乗って     ヘンリー・D・ソロー   宝島社   19950425/2刷
□ 舌鼓ところどころ     吉田健一    ゆまにて出版   19770531/第4版
□ 質問     田中未知    アスペクト   20000718/第1版第1刷
□ 不良読本 小説現代特別編集     矢作俊彦/浅田次郎    講談社   20080327/第1刷
□ バスにのって     田中小実昌     青土社   20000320/第2刷  

 *

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最近追加した、「絵画や写真についてのあれこれ」のブックリスト。

http://kotobanoie.com/

 

 

 

 

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そんなに忙しい日々を送っているわけじゃないけれど、雑事から解放される休日というのは、
じつはそれほど多くない。

久しぶりに、そんな日があった。

録り貯めるだけだった映画を観たり、猫と一緒にウタタ寝したり。

ブックリストのアップデートも遅れてるし、クリスマスのことだってもうあんまり時間がないことは
わかっているけれど、そんなちょっとヒリヒリしたうしろめたさを感じながら、外が明るい時間帯に
こうやって自堕落にすごすのは、甘美な誘惑に翻弄されているようで、すこぶる心地良い。

でも、悲しいことに、冬の陽はあっという間に落ちる。

日が暮れてしまえばあとは同じ、夜半を過ぎれば眼が醒えてくる。


過日、中之島の東洋陶磁美術館で「ルーシー・リー展」を観た。

1995年の没後、初めての本格的な回顧展ということで、ルーシー・リーのこれだけの数の作品を
一挙に見られるのは至福としか言いようがないが、彼女のやきものを見れば見るほど、ガラスの
向こうで眺めることにちょっとしたストレスを感じてしまう。

ルーシー・リーの器に、美術館は似合わない。

協働したハンス・コパーの抽象性は明らかにアートだけれど、彼女のやきものはそうじゃない。
彼女が指導を仰いだバーナード・リーチは民藝作家と呼ばれるけれど、彼女はそうじゃない。

― craft art.

テーブルの上に置いて花を活け、果物を盛ることで、その空間をいっそう輝かせるもの。
使ってこそ価値がある美しい handmade の器。

もちろんその器が、オブジェとしても際立って美しいからこそ、価値あるものとしてこうやって
美術館で見ることができるわけだけれど、日常で使うことをためらうほどに高価なアートピース
になってしまったことは、おそらく彼女の本意ではないはずだ。


凛とした柔らかなフォルムとニュアンスに富んだ釉薬のテクスチュア、路傍にころがる石の
ようなルーシー・リィーの器には、人の心にあたたかさやなつかしさを呼び起こす力がある。

焼きものは、最後のところで「炎」という人智のおよばないものに身を委ねなければ成り立た
ないものだから、こうやってその飾りのないナチュラルな美しさを見せつけられてしまうと、
いっそう見えざるものの存在を感じずにおれない。


会場で放映されていたリチャード・アッテンボローによるインタビューのフィルムには、彼女が
轆轤を挽く姿や、掻き落としを施すところなどが残されていて、興味深い。 

88歳で亡くなるまで魅力ある作品を造り続けたルーシー・リーだが、ひときわ優れているのは、
何ものにもとらわれない自由な心や人としての包容力が、その造形に映されている70代の頃
(=1970年代)の作品だと思う。

なによりも、可愛いおばあちゃんの小さな手で丹念に造られているっていうことが so cute だ。


そしてまた別の日、やはり素敵なおじいちゃんとおばあちゃんの映画。

" Herb and Dorothy "

もうすでに、インターネット上では賞讃しかないのがちょっとおかしいんじゃないかと思うくらい
の評判をとっている、N.Y.で暮らす、ある意味狂気ともいえるアートコレクターの老カップルの
アート蒐集の日々を描いたドキュメンタリー・フィルムである。


private collector というのは魅力的な称号である。
若冲を熱狂的に買い集めるジョー・プライスや、ルノワールを始めとする印象派の至宝を擁する
フィラデルフィアのバーンズ・コレクションといったよく知られたコレクションを例えるまでもなく、
コレクターというのは、つまるところ「モノ狂い」の別称なのだ。

合言葉は、" to be discoverd "
発見されるべき作品があれば、彼らは月にだって行く。
そして、月にいけるだけの財があるからこそ、コレクターという称号が与えられている。

この夫婦が素晴らしいのは、彼らがプライスやDr.バーンズのような富豪ではなく、郵便局員
として、あるいは図書館司書として普通の生活をしながら、嬉々としてプライベートを惜しみなく
コンセプチュアル・アートやミニマル・アートの作品のコレクションに捧げるところだ。

 " It's just beautiful. That's it."

アーティストと交流し、身の丈にあった範囲で、作品を蒐集する。
そして、いちど手に入れたものは絶対に売らない。
気に入った作家は、そのコレクションをどんどん深化させる。

ふたりの審美眼の根底にあるのは、考えてみればあたりまえのことなんだけれど、自分の眼
を信じるということ、そして、買えるものしか買わないという、シンプルな attitude だ(実は、もう
ひとつ、ワンベッドルームのアパートに収まることという条件があるんだけれど、その理由は
映画の中で、ドロシーからユーモラスに語られる)。

その可愛らしさ。
Dorothy は Herb より、少し背が高いんだ。

そして、彼らがとても優しく見えるのは、彼らを撮る視線が優しいからだ。

エンドロール、mac bookを買おうとして、店の人と話をするドロシーの傍らで、ソファにちょこんと
座ったハーブが、ぼんやりと水槽を眺めるシーンで、すこし涙がこぼれた。

こんな唄が頭の中を流れていたのだ。

ダーティー・ハリーが唱うのは 石の背中の重たさだ
片目をつぶったまま年老いた いつかの素敵な与太者の唄
その昔君にも生きるだけで精一杯のときがあったはず
あげるものももらうものもまるでないまま
自分のためだけに生きようとした

歌う僕は汚れた歯ぐきルーム・クーラーの湿った風をかじっている
夕べあの娘は最後の汽車で 南の町へ行ってしまった
夢はなかったけれど 時には泣きたいほど優しかったよ
僕は夜のスカートに首を絞められ
塩っ辛い涙流してる

どうして君は行ってしまうんだい
どうして僕はさよならって言うんだい
どうして僕は行ってしまうんだい
どうして君はさよならっていうんだい
こうしてにんじんみたいに手足を生やしてると
まるで何もかも悲しいみたいだよ

そうしてみんな昔懐かしい
おじいさんになってしまうのかな
そのうちみんな昔懐かしい
おじいさんになってしまうのかね


とても heart warming な映画なのに、どうして涙がでるんだろうと思って横を見たら、
隣の席で家人も泣いていた。

時代の空気を敏感に感じとった佳作。
これが初めての映画だという佐々木芽生監督は、この素晴らしい処女作を、終生追い続ける
ことになるかもしれない。

New York City で暮らしてみたい。


それにしても、

70歳、ジョン・レノンと同じ年に生まれた Dr.John が、10月に見せてくれた圧倒的なステージ。
貫禄充分に髑髏のついたステッキを杖いて、ステージを去ってゆく姿が眼に焼き付いている。

そして、そのジョン・レノンより7歳上のオノ・ヨーコが発信する、平和や愛への鮮烈なメッセージ。
考えてみれば、60年代のFLUXUSのメンバーなんだから、筋金入りである。

前衛芸術といえば、元ネオ・ダダのアーティストにして文筆家の赤瀬川原平さんも、ご健在。
ボブ・ディランや横尾さんだってもう70代だ。

この70歳たちは、みんなどうしてこんなにいい表情をしているんだろう。
なんか21世紀の70代って、これまで僕たちがイメージしてきた、いわゆるお年寄りとぜんぜん
違うんじゃないかっていう気がしてきた。

歳をとるのは子どもに還ることみたいだといわれるけれど、彼らの眼にはもっと奥深いものが
視えてるみたいだ。

歳を重ねることが、楽しみになってきた。


*


そういえば、ルーシー・リーの展覧会が行われていたところに常設されている焼きものも、
「モノ狂い」の夢の跡だったことを、ふと思いだした。

安宅コレクション。

掌でつつめば隠れてしまいそうなくらいに小ぶりの茶碗、800年という時代をくぐり抜けた
「油滴天目茶碗」の蒼い光を放つその器は、その一点だけで、そこで見たルーシー・リーの
すべての作品を凌駕するような妖しい輝きに満ちていて、しばらくその場を動けなかった。

ルーシー・リーの器が「アース」なら、この茶碗は「宇宙」。

器物の域を遥かに超えている。


*

師走の本買い。

こうやって見返してみると、相変わらずの気まぐれなセレクションだが、なんとなく傾向はある。

百花の百本」が始まって、それはこれまでのように期限のあるイベントではなく、常設のライ
ブラリーだから、買うときもそのリストや映像は頭の中に浮かんでいる。

そのセレクションのモノサシを、「2010年からやっと始まった21世紀を生きのびるためのカタログ」
と走りながら決めた、あんがい真面目に。

言葉にしてしまうと少し大仰で、ちょっと恥ずかしいが、ほんとうに生きにくい世の中なったと、
リアルに感じることも多いし、20世紀的なものと21世紀的なものの違いを、くっきりと肌で感じる
ようになった。

それはたとえば、twitter であったり、電子書籍であったり、EVであったり。

キーワードは、やはり「コミュニケーション」だろう。

少しでもそういうもののイメージが広がるような本を、ふんわりと集められたらいいな。

2010年も、あともう少し。

2011年はどんな未来だろうか。


□ シュルレアリスム宣言 溶ける魚    アンドレ・ブルトン   學藝書林  19741225/第1刷

シュルレアリスムという言葉を見ただけで、心が揺れる。

「宣言」は違う版のもので2種類すでに本棚にあるが、「溶ける魚」というなんともシビれる
タイトルの作品が収録されたものはこれが初めてである、しかも巌谷國士訳。

紙には空気が棲む。ましてや火が。あの煉瓦色の表紙の無造作な仮綴本から五十年を
経たとしても、数えられる時は長くも短くもなく、いずれ係ることさえもないだろう。時であり、
時でない時が、激烈にまた優しく訪れるだろう、アンドレ・ブルトンという名の形と書物。

序文「一冊の書は」 by  滝口修造 

ロクに読みもしない本を何冊も買いそろえるのも、ひとつの「モノ狂い」かもしれないが、自分の
本棚にその本を並べたときの、その快感は、やはり捨てがたいのだ。


□ 父の有り難う    長谷川まみ   主婦と生活社  2007

身に沁みる写真集だ。

金工家の長谷川竹次郎さんが、ふたりの子どもたちの1歳から20歳の誕生日に贈り続けた
手造りのプレゼント。

そのひとつひとつが、ため息がでるほど素晴らしい。

この本の企画者でもある、山口信博さんのブックデザインが秀逸。

permanent collection


□ 一千一秒物語    稲垣足穂   木馬舎  19871125/初版第1刷

たぶん足穂の最高傑作が、この版で手に入るとは思ってもみなかった。

この「一千一秒物語」は、稲垣足穂が17歳頃から書き始めた詩集とも掌編ともいえる作品群で、
自らが「自分が生涯かけて書くものは『一千一秒物語』の脚注にすぎないだろう」と予告した作品だ。

たとえばそれは、こんな風だ。

ポケットの月

ある晩、お月様がポケットへ自分を入れて歩いていた 
坂道で靴のひもがとけたので 結ぼうとしてうつむいたハズミに ポケットからお月様が転げ出て
急雨に濡れたアスファルトの上を コロコロコロと転げ出した 
しまったと思ってお月さんは一生懸命追っかけたが お月さんは加速度を増して転んで行くので
お月さんとお月さんとの距離が次第に遠くなって行った 
そしてお月さんはとうとう ズーと下の青い靄の中へ自分を見失ってしまった

1923年、関東大震災が発生した大正12年、トリスタン・ツァラが「ダダ宣言」を、アンドレ・ブルトンが
「シュルレアリスム宣言」を書いたのと同じ時代に、極東の地にこんな文章を書いた人がいたことは、
奇跡に近い。

やはり宇宙人なのか。


□ 物語の構造分析    ロラン・バルト   みすず書房  19810210/第3刷

□ 超私小説の冒険    赤瀬川原平   岩波書店  19890310/第1刷

□ パリのダダ    ミッシェル・サヌイエ   白水社  19790824/初版

□ 伝統とかたち 建築文化再見    伊藤ていじ   淡交社  19831026/初版

□ 茶の宇宙 茶のこころ    京都新聞社編   京都新聞出版センター  20071023/初版

□ 母なる色    志村ふくみ   求龍堂  19990609/3版

□ アジアの美味しい道具たち    平松洋子   晶文社  19960530/初版

□ 読書欲 編集欲    津野海太郎   晶文社  20011215/初版

□ 陽気な夜まわり    古井由吉   講談社  19940825/第1刷

□ ふらふら日記    田中小実昌   毎日新聞社  19870930/初版

□ いろんな色のインクで    丸谷才一   マガジンハウス  20050915/第1刷

□ 11分間    パウロ・コエーリョ   角川書店  20040530/4刷 

□ 千のチャイナタウン    海野弘   リブロポート  19880320/初版

□ わたしの家    大橋歩   講談社  19910415/初版

□ 黒い肌    ビリー・ホリデイ   講談社  19571107/初版

□ コレデオシマイ。    山田風太郎   角川春樹事務所  19970124/第3刷

□ 近代の神々と建築    五十嵐太郎   廣済堂出版  20020301/第1版第1刷

□ 青空    ジョルジュ・バタイユ   晶文社  19710720/6刷

□ 住居学    吉阪隆正   相模書房  19920228/第13刷

□ ディメンション    チャールズ・ムーア   新建築社  19780301/初版

□ 島    宮本常一編   有紀書房  19611015/初版

□ 海の向こうから    レイモンド・カーバー   論創社  19900720/初版第1刷

□ 微光のなかの宇宙    司馬遼太郎   中央公論社  19880520/初版

□ 日本の町    丸谷才一/山崎正和   文藝春秋  19870630/第1刷

□ ハーレムの子どもたち    ローザ・ガイ   晶文社  19780720/5刷

□ 借景と坪庭 古都のデザイン    伊藤ていじ   淡交新社  19650917/初版

□ 激しく倒れよ    沢木耕太郎   文藝春秋  20020930/第1刷

□ 盲目物語 名著復刻    谷崎潤一郎   ほるぷ出版  19840401/第13刷

□ 副田高行の仕事と周辺    副田高行   六曜社  20010224/初版 

□ 熱帯幻想 Fantastic Dozen 7    荒俣宏   リブロポート  19910620/初版

□ バウハウス工房の新製品    ヴァルター・グロピウス   中央公論美術出版  19910710/第1刷

□ 花伝書    勅使河原蒼風   草月出版  19800408/第2版第1刷

□ 充たされざる者 上・下    カズオ・イシグロ   中央公論社  19970710/初版 

□ ぼんやり空でも眺めてみようか    竹山聖   彰国社  20071101/第1版

□ モノ誕生「いまの生活」    水牛くらぶ編   晶文社  19900620/2刷

□ アンリ・ルソーとフランス素朴派の画家たち    瀬木慎一編   印象社  19861010

□ Twentieth-Century Design    J.M.Woodham   OXFORD  1979

□ べっぴんの鯛    伊集院静   アートン  20040531/初版第2刷

□ 日本雑記他    小泉八雲   恒文社  19751130/第一版第1刷

□ アントナン・アルトー全集1    アントナン・アルトー   現代思潮社  19711025/初版 

□ 平面 空間 身体    矢萩喜従郎    誠文堂新光社  20020419/第2刷

□ 普段着の住宅術    中村好文   王国社  20061030/6刷

□ メタボリズムの発想    黒川紀章   白馬出版  19720525/第1刷

□ 夢の書 わが教育    ウィリアム・バロウズ   河出書房新社  19980522/初版

□ 菊と刀 日本文化の型    ルース・ベネディクト   社会思想社  19830730/初版第30刷

□ 現代の茶会    千宗室他   新潮社  19840725/初版

□ F.L.WRIGHT  TALIESIN WEST    二川幸夫編A   DA EDITA TOKYO  19891107

□ 東京面白倶楽部    矢吹申彦   話の特集  19840215/初版

□ どこかにいってしまったものたち    クラフト・エヴィング商會   筑摩書房  19970625/初版第1刷

□ 手仕事の日本 新装・柳宗悦選集2    柳宗悦   春秋社  19720420/新装版第1刷

□ ギンズバーグ詩集 増補改訂版    アレン・ギンズバーグ   思潮社  19990601/新装第3刷

□ はるかに海の見える家でくらす    大橋歩   徳間書店  19921231/初刷

□ minimalism design sourse    Encarna Castillo   Collins Design  2007/4th printing

□ ANDY WARHOLE'S FACTORY PHOTOS    Billy Name   アップリンク  19960425/初版


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なかなか追加できない「デザインの発見」のブックリスト。

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ベトナム戦争が、"フルメタル・ジャケット" や "地獄の黙示録( Apocalypse Now )" や 
"ディア・ハンター " を生んだようにこの映画の受賞をきっかけに、ハリウッドが、新しい
刺激として、イラクやアフガンの戦争を貪欲にとりこむ予感がする。

考えてみれば、戦争はいつも、映画にとって格好の素材だった。

" The Hurt Locker "

スターのいない地味なキャスティングだが、良くできた真面目な映画だ。

本命だった" アバター " は観ていないけれど、映画芸術科学アカデミーの面々が、
SFハイテク超大作ではなく、このリアルな戦場の物語にオスカーを与えたのは、
ひとつの見識といえる。

アカデミーの会員たちのテイストが保守的なのは周知の事実としても、世界を席巻する
コマーシャル・トレンドである地球環境や価値観の違う異人種との衝突(あるいは共存
 - " Dances with wolves "のように)を描いたファンタジーよりも、戦争という絶対的な
理不尽に巻き込まれる人間の情況を、丁寧に描写したこの映画が、プロデューサーの
反則行為をものともせず、作品賞を獲得したのは、アメリカの良心ってやつだろうう。

テーマは、" war is a drug "

バロウズが言うように、どんな人間も麻薬中毒者であり、戦争もその麻薬のひとつで、
それはたとえば「裸のランチ」で描かれているモルヒネやアルコールといったヘヴィ・
ドラッグの世界と同じように、超現実ではなく現実そのものということだ。

2004年夏、アメリカ陸軍爆発物処理班ブラボー中隊のバグダッドでの38日。

ストーリーそのものは、いってしまえば " ダーティハリー " や " リーサル・ウェポン " と
同質の、ある孤独な「マッドドッグ」の物語だといえるが、市民社会ではなく、戦場という
非日常が舞台になれば、様相は一変する。
戦場での激しい緊張と弛緩の断続、しかも進駐した敵地での爆弾処理という極限的な
状況が、ヘロインのように兵士を蝕んでいくありさまが、印象的なエピソードとともに、
まっすぐな大人の視線で描かれている。

映画を観ながら、ソンタグの「良心の領域」というメッセージを思い出した。

たとえば「戦争」というような、具体的でリアルな現実を、想像するように努力してください。

世界では、ではビジネスが支配的な活動に、金もうけが支配的な基準になっています。
ビジネスに対抗する場所、あるいはビジネスを無視するという考え方を持ち続けてください。

暴力を嫌悪すること。国家の虚飾とナルシズムを嫌悪すること。

この作品はソンタグのこの言葉の具現のように思える。
キャスリン・ビグローがこれを読んだわけではないだろうが、どちらもがマチュアな女性
であることは、きっと何かを暗示しているに違いない。そして、ともすると重くなりがちな
テーマを、エンターテインメントとしても高いレベルで表現できているのは、彼女の映画
監督、そして脚本家としての才能だろう。

この人は、きっともっと遠いところに行ける。

タイトルはアメリカ軍のスラングで、「棺桶」という意味なんだそうだ。


プンクトゥムは、三等軍曹サンボーンのくるんとカールした睫毛。

*

本買記

サーフィンの本を、何冊かまとめて買った。
あるオールドサーファーと海の話をしていたら、なんとなくその気になってしまったのだ。

ワイキキビーチで、といってもずいぶん昔の話だが、はじめてサーフィンというものを見た。
ビーチから眺めていたらあんまり気持ち良さそうだったので、なんにも知らないままに
サーフボードを借りて、見よう見まねでパドリングして海に出たら、波にもまれて死にかけた。

葉山の海にも、毎日のように浸っていたことがあるが、ろくに立てたこともない。

そんなだから、サーフィンについて語ることなんてできないけれど、海に身を浸し、波に
身をまかすことの快感はよくわかる。

波を感じることは、地球そのものを感じることだ。
小さな板を操って、その波の上を気持ち良くすべれたら、やみつきになるのは当たり前だと思う。

サーフィンにほんとうにまきこまれてしまうと、自分の生き方にとって必要でないもの、
無駄なものなどには、いっさい手を出す気がしなくなってしまう。何か特別に厳しい修業
のように思えるかもしれないが、実際にやってみると、とてつもなく楽しく突き抜けた
世界であり、こんなにいいことが地球にまだ残っていたのかと、泣きたくなってくる
( by 片岡義男)。

戦争が drug であるのと同じように、サーフィンもひとつの drug なんだ、きっと。

■ SURFING Vintage Surfing Graphics  Jim Heimann  TASCHEN  2004  ¥2,000

TASCHEN の ★ICONS シリーズの一冊。
ハワイの古い絵葉書や雑誌の表紙など、サーフィンをモチーフにした1920−1960年代のグラフィック。

なかでも表紙に使われている、1963年の南カリフォルニア・サンオノフレビーチの写真にはシビれた。
まさにサーフィンU.S.A.、ケネディの時代のアメリカの、まぶしいほどの明るさに満ちている。

ノスタルジイというよりも憧れに近い。

■ サーフシティ・ロマンス  片岡義男   晶文社   19810310/9刷  ¥3,800

このタイトルが、センチメンタル・シティ・ロマンスという日本のロックバンドから引用された
ことを知っている人は、もうそんなに多くないかもしれない。

「宝島」や「ポパイ」で、片岡義男が語ったサーフィン。

イマジネーション、が片岡義男のサーフィンの源泉だ。

波をうまくつかまえた瞬間の、海の波というもののすさまじいエネルギーを、自分が
乗っているサーフボードの下に感じる。明るい陽の降り注ぐ真っ青な空にむけて、
波は自分をほうりあげてくれる。サーフボードを、そして自分を、下から持ちあげる
波の力が、ボードから両脚に伝わり、背骨から頭に抜けていき、空の中へ散っていく。
その瞬間には、すべてのものが見える。

サーフィンは単なるアウトドア・スポーツではない。ウェイ・オブ・ライフなのだ」とか、
「サーフィンはトータルなライフ・スタイルだ」と、アメリカ製のサーフィン映画のなかで
ナレーターがいつもくりかえしている。そのとおりだ。サーフボードに乗って、一度で
もいいから波をつかまえ、すべりおりた経験を持ってしまったら、サーフィンの魅力に
完全にひっかかってしまい、以後、サーフィンは、ウェイ・オブ・ライフにならざるをえない。

こんなことを、「まだ沖に出ている夕陽のサーファー」とか「海岸の古びた一軒家でソリッドな
食事をし煙草をすわない」なんていうタイトルで書かれてしまったら、参りましたというしかない。

■ 鎌倉幕府のビッグ・ウエンズデー  久保田二郎   角川文庫   19860725/初版  ¥180

久保田二郎は希代のほら吹きだ、黒人のジャズ・ミュージシャンがそうであるように。

そんな久保田二郎が書いた数少ない小説。
タイトルにもあるように、これは「ビッグ・ウェンズデー」のパロディだろう。

鎌倉時代、由比ケ浜で板子に乗って「波駆け」遊びをしていた若者たちが、元の大軍が
襲来する博多に出陣し、「大いなる水曜日」に、元の大船団を押し返した「神風」の大波
に出会う、という、まあ荒唐無稽な話だが、冒頭のハワイのデューク・カハナモクの話から、
サーフィンの歴史へとストーリーを進め、サーフィンは400年前、鎌倉時代の3人の若者が
始めた遊びだったというホラ話につなげる手際は見事。

小説的想像力、という言葉を思い出した。


売れた本の再買。

ショップの店主とすればあまりいい心がけじゃないかもしれないが、いちど売れた本を
買い直すのは、あまり好きじゃない。
本棚がちっとも変わった感じがしないからだ。

それでもそれがいい本で、ちゃんと読めてなくて、しかも前よりも安いということになれば、
やっぱり手が伸びる。
軟弱なのである。

□ 人間人形時代   松岡正剛/杉浦康平 稲垣足穂   工作舎  19910810/第6刷  ¥1,800

□ ヒッチコック映画術   F.トリュフォー   晶文社   19820130/2版  ¥2,800

□ デザインの輪郭   深澤直人   TOTO出版   20060201/初版第3刷  ¥1,000

□ 北斎万華鏡   中村英樹   19960420/第4版  ¥1,600

□ 一銭五厘の旗   花森安治   暮しの手帖社   19730810/第6刷  ¥1,500

□ 世界の喜劇人   小林信彦   晶文社   19730228/初版  ¥1,500

こうやって並べてみれば、どの本も一癖あって悪くない。
問題はどのように並べるかだな。


その他、こんな本をランダムに。

□ 空海 言葉の輝き   高岡一弥編   ピエビックス   20030514/初版第1刷  ¥1,500

□ ヒマラヤ自転車旅行記   ベティナ・セルビー  東京書籍  19911105/第1刷  ¥1,100

□ 町からはじめて、旅へ   片岡義男   晶文社   19801120/7刷  ¥1,200

□ TAKU SATO 世界のグラフィックデザイン65  佐藤卓  gggブックス  20040510/初版  ¥450

□ 結界の美 古都のデザイン   伊藤ていじ   淡交新社   19660608初版  ¥9,000

□ PURE STYLE OUTSIDE   Jane Cumberbatch   RAYLAND,PETERS & SMALL 1998  ¥1,300

□ CUT FLOWERS   Tricia Guild   Quadrille Publishing   19980520  ¥1,800

□ 白洲次郎と白洲正子   牧山桂子   新潮社   20080910/初版  ¥3,000

□ The Giving Tree   Shel Silverstein   Harper Collins   1964  ¥1,000


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