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遠くにいるはずの写真家が一陣の風のように現れ、撮影の合間だからと颯爽と立ち去った。
そして残されたのがこの素晴しい写真集だ。


■ 廃墟チェルノブイリ        中筋純       二見書房       20080426 初版


フォトグラファーの眼の凄さ。

廃墟と化した22年後のチェルノブイリ(正確にはプリピチャチの街)を、ジャーナリスティックな
功名心や、センチメンタルな感傷に流されることなく、プロフェッショナルな写真家の透きとおった
カメラ・アイで、静かに、そして美しく捉えている。

「写真というのは見えないものを写す作業だ」と中筋さんはこの本の中で言っているけれど、
被写体とカメラの間の濃密な空気感が、そこには確かに映しとられていて、見えるはずのない
放射能を感じ、身震いしてしまうほどだ。

人はひとりも写っていないのに、彼が撮った写真のひとつひとつの光と影に、凍りついた石棺
のような原子炉にさえ、さまざまな人間の生や死が視えてくる。

写真家は、きっとこの荒涼とした景色の中に、たとえようもなく大きくて、そしてじつはとても優しい
自然の力(それを神と呼んでいる人たちもいるが)のリアリティを体感していたに違いない。


それにしても、朽ち果てた原子力発電所の街は美しい。
不謹慎かもしれないが、たとえようもないくらいそれは美しいのだ。

そしてそれはまぎれもなく、彼がこの廃墟に美の存在を感じているということに他ならない。

文字どおり「真」を写すのが写真というものの radical な役割だとすれば、この「美しさ」こそが、
「廃墟チェルノブイリ」という写真集の本質じゃないかとさえ思う。

「廃墟は人間にリアルを突きつける刃のような存在だ」と中筋さんは preface で語っている。
そしてこのチェルノブイリこそは、地球上のどの場所より廃墟と呼ぶにふさわしい。

美の中にリアル(真)を視ることは人間の本性のようなものだし、発見し命名することは美学の
はじまりだから、人間がつくった構造物の荒廃が「廃墟」と名付けられたときから、それはすでに
「美」を内包していたといってもいいんじゃないだろうか。

アクロポリスもアンコールワットも桂離宮も、考えてみればみな廃墟なのだ。

あるいはぼくたちが生きているこの街も、廃墟になりつつある場所といってもいいのかもしれない。

流れる時間の濃淡は、生きているものに測る術はないけれど。


*


置き去りにされたこの街の写真に触発されて、" patina " というコトバが浮かんだ。

ソニー/エリクソンのデザインチームの制作する次世代携帯のキーワードで、携帯電話の素材を、
チタンやステンレスといったハードで変化しにくいものではなく、むしろ使用するうちに美的に変化する
ようなものにしたらどうだろうかという試案だった(「デザイン・ウォーズ」 NHK special  2007/07/23)。

廃墟とはまったく逆の経年変化だ。

もともとの辞書的な意味は「緑青」「使いこまれた器具の表面のつや、古色」「表面につけられた風格、
品位」、つまり古さ(旧さ)がもつ味わい、経年変化の愉しみ。

古典的な日本の美の概念でいうと、「侘び寂び」ということになるのかも知れないけれど、patina という
コトバにはもう少しクリエイティブなニュアンスを感じる。

フランク・ロイド・ライトがこんなことを言っている。
「雨が降るたびに繰返し洗われ、太陽を受けて温もり、時を経ても、それによって煤けてみすぼらしく
古ぼけることなく、かえって豊かさを増していくような建築が、ないものだろうか。」
建築の素材としての煉瓦やテラコッタの水平の目地について述べた文章の中でのことである。

これが patina なんだ。
そしてこの概念が、この時代のデザインや way of life に示唆するものはとても大きいと思う。

建築だけじゃなく、すべてのプロダクツが必ず直面する「陳腐化」への、ひとつのオルタナティブ。
使えば使うほど品が良くなるもの、キレイに使い込んだものを美しいと感じる感性。

気に入ったものに手を入れながらできるだけ長く使い続けることが、サスティナビリティの要諦だと
すれば、なんとなく日本人の心の奥底にごく自然にある美意識じゃないかっていう気がしないでも
ないこの patina というコンセプトを、片隅であっても意識することが、とても大切になってくるんじゃ
ないだろうか。

この前のエントリーの藤本壮介さんのコンセプトで、少し物足りなさを覚えたのは、この継続性という
ことに対する表明がなかったことがその理由じゃなかったかと、今になって思う。

「原初的な未来の建築」も、経年変化に耐えなければホンモノじゃないからね。


そんなことを想いながら、ふたたびこの写真集をぼんやりと眺めていると、裏表紙のぼやけた放射能
マークが、一瞬、ムンクの「叫び」に見えた。


怖っ。






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おかしな話だけれど、自分の書いたものに触発されてしまうということが、たまにある。

この前にエントリーした「少し大きな本」の余韻がどこかにまだ残っていたようで、写真集を買ってしまった。


「Screen Tests / Portraits / Nudes  1964-1996」  by  Gerard Malanga  


NYCの地下鉄68丁目の駅でシャープにキメているパティ・スミスのポートレイトに惹かれておもわず衝動買いしてしまったモノクロームの写真集だけれど、解説を読んでみると、このマランガという人、なんとあのウォーホールのアトリエ " the factory " のメイン・フォトグラファーで、ニューヨーク・タイムズによれば、" Andy Warhol's most important associates(右腕) " だったそうだ。

そう、60年代後半から70年代初めにかけてのポップ・アート華やかなりしころの NEW YORK CITY !

" Screen Tests " は、ウォーホールの " the factory " を訪れた人々を、モノクロで撮ったポートレート映画のプロジェクト。 このサイレント・ムーヴィーで、1秒間に16フレームというゆっくりとした速度のBOLEXを回していたのが彼だ。

圧巻は " Portraits " で、アンディ・ウォーホールはもちろん、アビー・ホフマン、ロバート・メイプルソープ、アレン・ギンズバーグ、ジャスパー・ジョーンズ、ジョン・ケージやテネシー・ウィリアムスといった当時のニューヨークのHIPなセレブリティたちの、ほんとうにリラックスした姿が残されていて、このブロンクス生まれの若いアーティストが彼らに愛されていたことがよくわかる。


写真というメディアの大きな特性のひとつは、静止した時間の中で、そのディティールが克明に記録されるということだけれど、ちょっと平凡な印象の " Nudes " も含めてこの写真集を眺めていると、真を写すっていうことの楽しさ、そして怖さをおもい知らされる。

それにしても28才の彼が、25才のメイプルソープやパティ・スミスを撮っていた1971年のニューヨーク、みんなこんなに若かったんだ。


*


「Twelve」  by  Patti Smith


パティ・スミスは生き残ったアーティストだ。
パンクの時代を疾走し、打ちのめされ、そして劇的な復活(Gone Again)。

1967年、21才の誕生日に、メイプルソープ(彼女のファーストアルバム " Horses " のアルバムジャケットの写真を撮ったのはこの人だった)からプレゼントされたという山羊の革のタンバリンをジャケットにしたこのアルバムは、彼女の「ロック」へのオマージュに相違なく、ジミ・ヘンドリクス、二―ル・ヤング、ボブ・ディラン、ドアーズといったアーティストやその楽曲のセレクションは、使い捨ての商品としてではなく、同時代を生き残った人だけに語れる " narrative(物語) " に満ちている。

60才のロッカーが造った魂のアルバム 「Twelve」 は、間違いなく2007年のベスト・アルバムのひとつだと思う。

 

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□ Screen tests / Portraits / nudes      Gerard Malanga   Steidl  2000      ¥2,800     ORDER from here

□ ポッピズム      アンディ・ウォーホール  リブロポート  19920405  初版    ¥3,000   ORDER from here

□ ぼくの哲学      アンディ・ウォーホール  新潮社  19980830  初版    ¥1,800    ORDER from here

□ Twelve (CD)    Patti Smith  COLUMBIA   2007    ¥1,500    ORDER from here

 

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